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第65話 ぶち破る方法を

 震える身体に力を入れ、俺を惑わす泥濘(ぬかるみ)から、自身を引き抜いた。  ミケの脇に両手を入れ、腰を上げさせる。  その瞳は、涎塗れで反り返る俺のペニスを名残惜しげに見詰めていた。  頭ひとつ分下にあるミケの顎に指先をかけ、顔を上げさせた。  不満げで、物欲しげな視線が、俺に苛立ちを向けてくる。 「別に嫌だとか、汚ねぇとか、…思ってねぇよ」  面白くなさげに歪む唇に、キスを落とす。  俺のカウパーが混じった唾液塗れの唇を、ぺろりと舐めてやる。  思わず、ははっと笑い声が漏れていた。 「……自分の咥えてた口は、さすがに嫌だな」  自分で重ねておいて感じた嫌悪に、苦笑する。 「嫌なら、すんなよ」  俺の唇に触れたミケは、汚れを拭うように、指先を動かす。 「お前が好きだから、傍に居てぇから、あそこを辞めて俺のところに来いって言ったんだぞ」  残念感の溢れる声を放ちながらも、俺の傍に居てやると言ってくれたはずなのに。  ミケは、俺の大事なものなのだとわかってくれたはずなのに。 「俺の大事なもんが、汚ぇわけねぇだろ」  俺の唇の上を這っていた手を捕まえ、ちゅっと小さくリップ音を立てた。 「……じゃあなんで、抱かないの? 色んな男に穢された僕の身体には、興味ないってコトでしょ。あんたが好きなのは、僕の〝テクニック〞でしょ」  捕まえていたミケの手が暴れ、俺は振り払われてしまう。  俺の傍に居るとは言ったが、ミケは、どこかよそよそしくて、遠慮気味で。  俺とミケの間には、見えない壁が(そそ)り立っている気がしていた。  そういうコトだったのかと、腑に落ちた。  自分は、穢いから。  だから、俺が触れないんだと解釈されていた。  俺の傍は、恋人としての居場所じゃなくて、囲われた男娼の避難場所だと認識されていた。  なにも、伝わってない。  微塵も、通じていない。  どうしたら、破れるんだよ。  どうしたら、壊れるんだよ。 「お前の殻は、どうやったら、ぶち破れるんだ?」  あまりにも伝わっていない俺の想いに、捻くれているミケの思考に、苛立ちが声をがさつかせる。 「殻になんて閉じこもってないよ。事実だろ。意識してなくても、汚いと思ってるんだよ。だから……」  〝抱かない〞という言葉は音にはならず、代わりに諦めの溜め息が、ミケの口から零れ落ちる。

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