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第71話 スズシロを守るため

 暫くの後、話はついたと伝えてきた瞬に、愁眉(しゅうび)を開いた。  愁実は、手切れの金も受け取らず、郭遥の将来を潰す気もないと言い切った。  あまつさえ、金を受け取ったコトにして、郭遥に金目当てのゲス野郎だと思わせておけ、と。  その代わりというわけではないが、高校を卒業するまでは多めに見てくれと懇願され、瞬はその条件を飲み、戻ってきたらしい。 「スズシロのため…と、思ったんだ。スズシロの金を狙ったふざけた輩なら、追い払うべきだと思った」  苦しげに紡がれる瞬の声に、悔しさが滲んでいた。 「黙っておけよ。金を受け取ってないコトは、郭遥には言うな」 「そこまで愁実を貶める必要は、…あるのか?」  想い合っている2人の間に、横槍を入れ、引き剥がす。  瞬は、愁実の存在を郭司へ伝えるべきではなかったのではないかと、後悔の念を零していた。 「愁実が自分から離れたとなれば、傷つくのは郭遥だ」  くっと詰まるような瞬の息遣いが、耳に届いた。 「家柄のせいだとスズシロの家を恨むかもしれない。金の為に、近寄り裏切ったと思っていた方がいい。愁実が、郭遥のコトを想い離れたと知れば、郭遥はスズシロを捨てかねないぞ」  真っ直ぐなゆえに、郭遥の考えそうなコトは、簡単に推測できた。  常識から外れた極端な行いだが、郭遥の思考ならば、やりかねないと感じた。 「それに、郭遥にはやらなきゃいけないコトがある。あそこは同族経営だ。血筋を大切にしてる。……わかる、だろ」  同性同士では、どうやったって子を授かるコトなど出来ない。  愁実との間には、新しい命は宿らない。 「割り切れ」  オレの一言に、瞬は小さく息を吐いた。  約束通り、愁実は卒業と同時に姿を消した。  失踪した愁実の居所を問うてきた郭遥に、瞬は〝教えない〞と返した。  何をしたのかと詰められた瞬は、手切れ金を包み、縁を切るように頼んだと、伝えた。  探せという郭遥の命令にも従わないと、突っぱねた。  瞬の(かたく)なな対応に、今の自分にはどうするコトも出来ないのだと悟った郭遥は、大人しくなったらしい。

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