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第73話 愁実よりも厄介な存在
愁実を親元から引き剥がすのは、造作ないだろう。
だが、愁実を拾ったとしても、比留間に身を置かせるワケにもいかない。
親父にバレれば、必然的に郭司の耳にも入る。
あの冷血漢、郭司の手に掛かれば、最悪、愁実は始末されてしまうだろう。
ただ、再会させなければ良いだけの話で、オレは愁実の命まで取るつもりはない。
「……そいつの居所だけ、押さえといてくんねぇ? なんか変化あったら報告して」
不思議そうにしながらも、タマは頷く。
「スズシロの御曹司、…郭遥の元恋人なんだよ」
足した言葉に、タマのきょとんとした顔が返ってきた。
「え? 郭遥って、結婚したでしょ?」
息子というからには愁実は男で、神楽の娘と結婚した郭遥と恋人だったと言われても、すんなりと受け入れられないと、タマは首を傾げる。
「郭司だよ。あいつが、大事な跡取りから愁実を引き離したんだ。比留間 とスズシロに反対されたらガキの郭遥には、どうしようもないだろ」
「あー……」
居た堪れないというように、残念そうな声を放ったタマ。
郭司に対する世間の評判が噂話程度には耳に入っているタマは、オレの少ない言葉で、郭遥を取り巻く環境を理解したらしかった。
「離れたシュウジツより、郭遥の傍を彷徨いてるサキの方が厄介なんじゃない?」
郭遥がバイならば尚更だと、きゅうっと眉根を寄せたタマは、面倒そうに顔を顰める。
「サキ?」
聞き慣れない名に、訊ね返すオレに、タマは言葉を繋ぐ。
「三崎 恒久 。ちぃちゃん…〝レディ〞って呼ばれてる成金の資産家の千我原 珠吏 、知ってるでしょ? の、お気に入り。お金には困ってないだろうから、スズシロの財産狙いって訳じゃないとは思ってたんだけど……」
タマは、小さく溜め息を吐き、言葉を繋ぐ。
「ちぃちゃんのお気に入りってコトは、ステージにも上がってるだろうし。…郭遥自身を、狙ってるのかもね」
ぐっと険しくなるオレの表情に、タマは首を振るう。
「サキの本業は事件屋だけど、命を狙ってるとかじゃなくて。たぶん、身体目当てなんじゃないかな」
タマの指先が、オレの太腿から腰をいやらしく撫で上げる。
「ちぃちゃんの変態趣味は、有名だからね。ガラス張りの部屋にほぼ全裸の男の子を入れて、男同士で色んなコトさせて、それを眺めて楽しんでんの。気に入られてるってコトは、サキには、そっちの嗜好もあるってコトだろうし……」
オレの脇腹を擽るように指先を遊ばせながら、んーと軽く唸るタマ。
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