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第80話 スズシロの秘書 < Side 瞬
ただ、郭遥に恋をした愁実を。
郭遥の将来のためにと姿を消した愁実を。
俺は、金目当ての下衆野郎に仕立て上げた。
愁実が、もっと性悪な相手であれば、俺もこんな感情を抱くコトはなかった。
愁実の人となりを調べる前に、当主へと報告するという俺の浅はかな行いで、2人は引き裂かれてしまった。
言い知れぬ罪悪感が、胸に蔓延った。
三崎という男が、郭遥の周りを彷徨いていると、礼鸞から情報が入った。
三崎の存在には、気がついていた。
だが、同じ轍を踏みたくない俺は、知らぬフリをしていた。
郭司に存在が暴かれる前に、何を考え郭遥に近づいたのかを探っておいた方が良い、と忠告され、俺は腰を上げる。
礼鸞から教えられたバーを訪れた。
〝BAR 恒春葛 〞は、三崎がレディと呼ばれる資産家からもらい受けた店らしい。
ドアベルの音を響かせ、店内へと足を踏み入れた。
店の客は、俺1人。
俺の顔を確認した瞬間、三崎の瞳が驚きに大きくなる。
だが、その瞳はすぐに胡散臭い笑みの裏へと隠された。
カウンターに立つ三崎の目の前のスツールを引き、腰を下ろした。
「君は、スズシロの秘書さんかな? それとも、比留間さんの所のワンちゃんかな?」
おしぼりを差し出しながら首を傾げてくる三崎は、にこやかな笑顔を見せるが、心の内は読ませない。
「私は、スズシロの秘書ですよ」
右腕に舞う鸞鳥の存在に、ジャケットの袖口から覗くワイシャツを無意識に伸ばしていた。
「ということは、郭遥絡みか。俺を排除しに来たってコトかな?」
彼みたいに…と三崎は、ぼそりと呟く。
〝彼〞は、愁実を指し、スズシロが裏から手を回し、郭遥の傍から遠退けたコトを知っていると暗に伝えてくる。
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