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第82話 おこぼれに与れるのなら

 愛や恋のない身体だけの関係ならば、公衆の前面で、なにかをしでかすコトもないだろう。  郭遥との関係を疑われたところで、そこには性別という壁がある。  ちょうど良い目眩ましになりそうだな……。 「私たちを怒らせるようなコトは、しないで下さいね」  監視の目は常に光っているのだと、牽制しておく。 「やだなぁ。俺、そんなに抜けてないよ」  くすくすと、さも可笑しそうに三崎は笑った。 「スズシロと比留間(あなたたち)に噛みつくつもりなんてある訳ないでしょ。貴方たちの蜜月関係の間に割って入ろうなんて微塵も思ってないよ」  滅相もない…と、三崎は苦い顔で頭を振るった。 「争い事は嫌いなんだ。事なかれ主義、なんでね」  消えろって言うなら消えるよ? と三崎は首を傾げた。 「懲りたって、言いましたよね?」  瞳を細くし、睨むような視線を向ける俺に、はっとした顔を曝した三崎は、そうだったねと、小さく笑う。  三崎の掌の上で、踊らされている気分だ。  こうやって、レディや郭遥に限らず、人をたらし込んできたのだろうと感じた。  7つも下の男に、手玉に取られるのはあまり良い気はしないが、ムキになるほどのものでもないと視線を外した。 「比留間さんなら、俺みたいな雑魚(ざこ)がチョロチョロしてたって、気にならないでしょ?」  3種類のチョコレートの乗った小皿が俺の前へと差し出された。 「おこぼれに(あずか)れたら儲けもんだな…、くらいには思ってるけど」  小皿の中からホワイトチョコを摘まんだ三崎は、それをくるくると回して見せる。 「表立って悪いコトは出来ないスズシロと、何でもありだけど繋がりはあまり公に出来ない比留間さん」  手にしていたホワイトチョコをカウンターの上に置いた三崎は、その隣にブラックのチョコを配置する。 「それなら、俺のようなどっちつかずの小者が、傍で見守るのもありなんじゃない?」  ミルクチョコを手にした三崎は、ブラックチョコが置かれている反対側にそれを置く。 「邪魔な羽虫くらいなら俺でも追い払うくらいは出来るしね……隙間産業ってヤツかな?」  ふふっと楽しげな音を立てる三崎に、まるめ込まれている自覚がない訳じゃない。  だが、あえて追い払わなければいけないという使命も感じられない。

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