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第85話 間違ったって、かまわない < Side 礼鸞
三崎に、郭遥への敵意は無さそうだと、瞬からの連絡を受けた。
少なからず、郭遥への情がありそうな三崎は使えると、瞬は動静を見守るコトにしたらしい。
スズシロと比留間に守られている郭遥に、易々となにかを仕掛けて来るコトも無いだろうと、オレもそれに乗っかる。
だが、厄介なのは郭司の方だ。
同性での恋愛を良く思わない堅物な郭司は、間違いなく邪魔立てするだろう。
「当主にバレたら、また面倒なコトに……」
嫌な役目を負わされるのが目に見えている瞬は、深い溜め息を吐く。
「わかった。こっちも郭遥に探りを入れておく」
郭遥が三崎を、どう思っているのか……。
大切だと思っているのなら、郭司には見つからぬようにと釘を刺すつもりだった。
「うん……」
瞬の歯切れの悪い返事とぎこちなさに、違和を感じた。
「瞬。なんか隠し事してねぇ?」
鎌をかけたオレに、ヒュッと瞬の喉が鳴る。
数秒の沈黙の後、瞬はお手上げだと言うように口を開いた。
「……澪蘭が、2人目を身籠った。俺の、子だと、…思う」
三崎に興味が湧いているらしい郭遥。
愁実を恋人だと宣えてしまう郭遥の性的嗜好は同性なのだろう。
そんな郭遥が、澪蘭を蔑ろにしているのは、火を見るより明らかだった。
「お前、ご主人様のものに手ぇつけたのか?」
叱りつけるのも違う気がして、半分呆れを交えながら放ったオレの言葉に、瞬はくっと言葉を詰まらせる。
「郭遥さまが蔑ろにするから。離婚、なんてさせられないし」
ぼそりと声を放った瞬は、溜め息混じりに言葉を繋ぐ。
「1人目の時も、郭遥さまは彼女に指1本触れてないんだ。医療の力で授かった命で…。子供が出来てから、輪をかけて彼女への興味は薄れていって…あのまま放っておいたら、離婚は免れなかったと思う……。スズシロの品格を守るためには、そんな疵をつけるわけにはいかなくて、俺がフォローするしか……」
言い訳がましく言葉を紡いだ瞬は、どうすれば良かったのかと迷いの残る息を吐く。
「堕ろすように、進言はしたんだ。でも、無理で……」
「隠し通せ」
ぼそぼそと自白を続ける瞬の自己弁護紛いの言葉を、一言で制した。
変えられない過去を嘆いたところで、なにも生まなければ、好転するわけもない。
ならば、先を見据えるしかない。
郭司に、瞬の子だなどと知れれば、瞬も子供も危ない。
あの男なら、なんの情も罪悪もなく、この世から消し去るくらいのコトはしてしまう。
そんな嫌な未来を迎えないためには、その事実を隠し通すしかない。
「勿論……澪蘭さますら危うくなる」
自分は、間違ってばかりだ…と零す瞬。
「間違ったって認められるだけ、いいんじゃねぇの?」
オレの言葉に、瞬は疑問符を浮かべるように、電話の向こうで動きを止める。
「愁実で失敗してるから、サキは闇雲に追い払わなかった。お前が失敗から学んで、なんでもかんでも報告しなかったから、サキや郭遥を守れたんじゃないのか?」
郭司なら有無を言わさず、利を生まない人間を消していくだろう。
周りの人間たちが消えていけば、郭遥はスズシロという柵 を憎むようになり、ひいてはスズシロを潰しかねない。
「子供 が出来ちまったのは想定外だけど〝離婚〞っていう疵をつけずに済んでるのは、お前がちゃんと澪蘭をフォローできてるからだろ」
ゆるりと諭すように言葉を繋ぐ。
「間違ったっていいんだよ。その間違いをどう正すか、だろ? 全部をお前1人が背負う必要なんてない」
郭遥たち夫婦の関係を。スズシロを。
1人の人間が考え動いたところで、出来ることなど高が知れている。
感情を表に出すなとは言ったが、それは周りにナメられないためだ。
人に頼るなと言った覚えはないし、オレの前でまで虚勢を張る必要などない。
「お前は1人じゃない。困ったら、…いや、いつでもいい。オレを頼ってこい」
小さな照れ臭そうな笑い声が耳に響いた。
「ありがとう。頼りにしてるよ、礼鸞……」
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