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第87話 火のない所に煙は立たぬ
郭遥たちが、高校を卒業してから3年。
2人目の子供、遥征 が産まれて、半年ほどの年月が流れた。
三崎の存在を郭司に悟られるなと忠告した際、2人目の子供の話には触れなかった。
下手に藪を突っつき、蛇を出す必要もない。
家庭は体の良い隠れ蓑だと思っている節のある郭遥の興味は、三崎にしか向いていない。
暴く必要のない秘密は、触れずに隠しておくべきだ。
「売っぱらわれた」
オレの元を訪れ、いつものように抱き着いてきたタマが、不満たらたらに声を零す。
顰めた顔を向けてくるタマに、オレの眉根も寄る。
「なんの話だよ?」
怪訝な顔で問うオレに、不快感を露にしたタマの口が名を紡ぐ。
「愁実。綺美 メディアっていうAVの会社に持ってかれた……」
はあぁっと、わかりやすい溜め息を吐くタマ。
高校を卒業した愁実は、一般企業に入社し、飲んだくれの親父を養いながら、借金を返済しつつも、真っ当に生きていたはずだ。
それが急にAV業界に売られたとはどういうコトなのか。
「あいつの親父が摘まめるだけ摘まんで、消えた。息子に全部押しつけて、姿、眩ましやがった……」
タマにしては珍しく、荒れる感情が声から漏れていた。
「職場にまで追い込みをかけられて、辞めざるを得なかったみたいだよ」
仕事が失くなれば収入はなくなり、ひいては借金の返済も滞る。
そうなる前に、ガラを押さえ身体を売らせたという所だろう。
苛立ちと呆れの混ざる息を吐いたタマは言葉を繋ぐ。
「父親の方、探そうと思えば見つられるだろうけど、捕まえたところで、返済能力ないんじゃ意味ないよね。それに、綺美メディアの大元は、愁実の父親が金借りてた金融屋だから、始めから仕組まれてたのかも……」
「仕組まれてたなら、どうしようもねぇだろ」
比留間が愁実の素性を調べた頃には、父親は既に借金塗れだった。
それに、タマは単なる情報屋であり、比留間の人間でもなければ、事件屋でもない。
あの時、既に目をつけられていたのなら、タマに、どうこうできるものでもない。
責任も負い目も感じる必要などないと言葉を紡いだが、タマの表情は晴れなかった。
「ハードなSM系を売りにしてるメディアだし、演者の待遇も良くないって噂もあるんだよね」
どうにかならないかとオレを見詰めてくるタマに首を横に振るった。
「煙のないところに火は立たねぇよ」
捨てるように吐いたオレの言葉に、だよねぇと、タマの落胆めいた声が続く。
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