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第88話 タマの審美眼

 タマの話では大元が金融屋になっているが、資本を出している所というだけで、実質の稼ぎはメディア側が担っているのだろう。  金融屋を潰したところで、メディア側には、影響があるとは思えなかった。  潰すのなら、メディア側からでなくては、意味がない。  金融側であれば、比留間にもクラルテという存在があり、難癖をつけられないわけではない。  だが、メディアとなると話は別だ。  比留間に、メディアへの伝はない。  自分たちのテリトリーではない地域であり、業界も論外となれば、そう易々と手は突っ込めない。  そんなところに、いきなり首を突っ込もうものなら、やぶ蛇もいいところだ。 「なんでそんな親身になってんだよ?」  冷たい人間だとは思っていないが、オレが訊くまで名前すら知らない赤の他人だった愁実を、タマが気遣う理由がわからなかった。 「愁実を追い払ったの、シュンなんでしょ? あいつ、気にしてるんじゃない?」  情報強者であるタマが、愁実を追い払ったのが瞬であるコトを突き止めていても不思議はなかった。  愁実を気に掛けているというより、瞬の気持ちを(おもんばか)ってなのだと腑に落ちる。 「今から…、か。少し時間はかかるかもな」  ぼそりと放ったオレの言葉に、タマは首を傾げる。  性の売買が、それなりのシノギになるのは、娼館で実証済みだった。  あの頃に築いた伝を頼れば、食い込めないコトもない。  比留間としてメディアに手を出せば、後々綺美メディアを潰しても、怪しまれるコトもない。 「比留間(うち)も、そっちに手を出せばいいんだろ?」  言葉の意図を理解したタマの顔に笑顔が戻る。  潰したからと、愁実が報われるとは限らない。  だが、なにもせずに傍観しているコトも、瞬の罪悪感を放っておくコトも、したくはなかった。 「鸞ちゃん! 大好きっ」  嬉しそうに、ぎゅうぎゅうとオレを抱き締めるタマは、胸許でくすくすとした笑い声を零す。 「やっぱ、鸞ちゃん、優しいよね」  んふふっと自慢げな笑みを乗せた顔を上げたタマに、オレは首を傾げる。 「優しくは、ねぇだろ」  厳つい顔にがたいのいい身体つき、その上比留間の家柄を背負っているオレのどこを切り取れば〝優しい〞などという単語が出てくるのか。  タマの思考が、不思議でならなかった。  眉を潜めれば自然と鋭くなるオレの視線に曝されながらも、タマの笑顔は崩れない。 「世間は、見た目とか家柄だけで、鸞ちゃんのコト冷酷非道で怖い人だって決めつけてるけど、鸞ちゃんのここは凄く温かいんだよ」  物理的に懐に入り込んだタマは、さらに奥にあるオレの心を捉え、温かいのだと宣う。 「初対面で見抜いてた僕の審美眼、凄くない?」  褒めていいよ? とでも言うように、にこにことオレを見やるタマ。 「凄ぇ、すげぇ」  適当にタマの頭をぽんぽんと叩くオレに、ふん…と呆れたような溜め息が零された。

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