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第89話 不安が拭えなくて < Side タマ

 また、やっちゃったな。  自宅へと帰る道すがら、路面に転がる石ころを蹴飛ばし、反省する。  後悔したところで後の祭りで、無かったコトになんてならないのに。  やっぱりやらなくていいよなんて、言えないのに。  僕はまた、礼鸞の優しさに甘えて、比留間の力を利用……する。  背後にシュンの存在をチラつかせるという卑怯な手まで使って、だ。  知らない業界に足を突っ込み、理由をつけて潰すのは、なかなかの大仕事だ。  だけど礼鸞は、綺美メディアを潰してほしいっていう僕の無理難題に近いお願いを叶えてくれるらしい。  別に、愁実がどうなろうと、僕にはどうでもいい話だった。  綺美メディアを潰したかったのは、ちぃちゃん…、レディに愚痴られたからだ。  お気に入りが連れていかれ、傷だらけにされたと酷くご立腹だったレディ。  レディの傍には、三崎の師匠にあたる事件屋がいるが、金融屋とタッグを組んで、それなりの知名度を得てしまっているメディアを潰せるほどの力は持ってはいない。  単なる愚痴だと聞き流しても文句は言われなかっただろうが、知らぬ存ぜぬで放ってしまったらレディからの情報が劣化するのは目に見えていた。  関係ないと放置して、情報の質を下げられるくらいなら、恩を売っておく方が得策だった。  比留間を利用するのは、小賢しいコトだって、わかってる。  好きな人を自分の利益のために利用するなんて、卑怯者のするコトだ。  だけど、僕は確かめずにはいられなくて。  礼鸞は、僕の〝お願い〞をどこまで聞いてくれるのか。  願いを叶えてくれる礼鸞は、僕を好きでいてくれているんだって、……愛されているんだって、確かめたかった。  僕の無謀な望みを叶えてしまう無自覚な優しさが、礼鸞の愛だから。  素っ気なくて、冷たくて…だけど、きっと不器用なだけ、なんだ。  だから、僕は確認する。  〝愛してるなら、僕のお願い、叶えてくれるよね?〞って。  30歳を越したいい大人が、なにをしているんだと思わなくもない。  信じればいいだけだって、わかってる。  思っても、やっぱり不安は拭えない……。

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