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第93話 爆弾の投下に止まる時間
いつものように畳の上に寝転がり、テレビを見ている礼鸞を、暫し黙って見詰めていた。
「どした?」
いつまで経っても部屋には入らず、じっと黙って眺めていた僕に、ゆるりと身体を起こした礼鸞の声がかかる。
ふわりと持ち上がった礼鸞の視線が、僕を捉える。
僕は、笑顔以外のなにものでもない表情で口を開いた。
「別れよっか?」
なんの迷いもなく楽しげに、弾むような声音で告げた。
爆弾の投下に、礼鸞は瞬間的に動きを止める。
唐突に放たれた僕の言葉に、理解しているはずの単語をわかりたくないと拒絶しているかのように見えたのは、きっと僕の願望だ。
瞬間的に上がったボルテージを、数秒の沈黙で落ち着けた礼鸞の低く冷めた声が、僕の鼓膜を揺らす。
「……なんで?」
のっそりと身体を起こした礼鸞は、ゆるりと僕に近づき、腰を曲げ、顔を覗き込んでくる。
ひんやりとした冷気を纏う視線に、そわりと背が震えた。
「自分が、どんどん嫌なヤツになってくんだよね」
疲れを纏う息を吐く僕に、礼鸞の顔は険しさを増す。
「わかるように話せ」
苛立ちと呆れの混じる声色が、僕に降ってくる。
「僕は鸞ちゃんを利用してた。鸞ちゃんの優しさにつけこんで、いいように使ってた。…こんな人間、最低じゃん」
ははっと乾いた笑いが口を衝いた。
「綺美を潰すのだって、本当は愁実やシュンを心配した訳じゃない。ちぃちゃんのご機嫌取りのため。そんな些細なコトのために、礼鸞に大変なコト、強いたんだ」
「オレは利用されてるなんて、思ったコトねぇよ」
あんなの〝利用〞のうちに入んねぇよ、と鼻であしらう礼鸞に、僕は言葉を募る。
「だけどっ。今までだって、……昔から全部、鸞ちゃんは僕の〝お願い〞聞いてくれた。それって、僕がいいように鸞ちゃんのコト使ってるって…〝利用してた〞ってコトでしょ?」
身体の関係だった時から、恋人関係になった今でも。
セフレの時は、僕も〝お礼〞だと性処理で返せていたけど。
恋人になったからには、セックスなんてなんの返礼にもあたらない。
それは、普通のコトだから。当たり前の営みだから。
「僕は、鸞ちゃんを利用して、比留間の力なのに自分が偉くなったつもりでいた」
こんなのは、利己的で狡い人間の所業だと、自己中心的で最悪な自分に呆れる。
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