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第95話 不安と共には、いたくない < Side 礼鸞

 なんの脈絡もなく始まった別れ話に、オレの気持ちが置いてきぼりをくらう。 「お前がお前を嫌いになっても、オレはお前が好きだ。使いたけりゃ好きなように使えばいいだろ。お前に利用されるなら本望なんだよっ」  別れようとか、女と恋愛しろとか、オレの感情を無視するタマに苛立ちが溢れた。  堪えきれない腹立たしさに、オレの動きが粗雑になる。  繋いだままの手を引き、タマの身体を胸に抱き込んだ。 「逃がすつもりねぇから。…どうしても別れるって言うなら、監禁するしかねぇか」  肋を折る勢いでタマの身体を抱き竦め、言葉を繋ぐ。 「情報も持ってこれなくなったら、お前は本当に単なるお荷物になるけど、それでいいってコトだろ?」  目の前の頭に顎を乗せ問うたオレに、タマの不服げな声が返ってくる。 「良い訳ないでしょ」  オレの腕の檻から抜け出そうとタマは暴れる。  だが、小さく華奢なタマが、図体がでかく強靭なオレに勝てる筈もない。 「オレは一向に構わねぇよ。情報屋も危ない仕事だからな。そっから足洗わせられるんなら、そっちの方が何倍も心労減るしな?」  むすりと不機嫌極まりない空気を醸すタマ。  オレは腕を緩めるコトなく、疑問符を投げ落とす。 「なんで急に、別れようってなったんだよ……?」  出会ってから今まで、タマの〝お願い〞を叶え続けてきた。  綺美メディアを潰すというレベルの〝お願い〞だって、何度となく(こな)してきた。  今更、急に離れたがるタマの本心が読めなかった。  こんな話を持ち出すきっかけがある筈だ。  オレは、その要因を探り、突き止めなくてはいけない。  別れない。離さない。  そう告げ、話を終わらせるのは簡単だ。  だが、納得しないままに流してしまっては、何時なんどき再燃するか、わからない。  そんな不安と共には、居たくはない。 「鸞ちゃんが僕に会いに来てくれないのが悪い……」  むっと不服げな声を上げるタマに、頭の上で首を傾げた。 「僕の家、来てくれたコトないよね?」  女の所には足繁く通ってたクセに、と不満たらたらの声を零したタマは、オレの胸許を両手で押し、出来た隙間から鋭い視線を向けてくる。 「待て待て。言い訳させろ」  じとっとオレを見上げてくるタマに、腕の力はそのままに、焦り言葉を募った。 「オレがお前の家に出入りしたら、お前が比留間の軍門に下ったって思われるだろ。お前はそれが嫌だから、一緒に住むコトを拒否ってるんだろが……」  違うのか? と眉根を寄せるオレに、タマは言葉を詰まらせる。

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