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第100話 じわりと進む計画

 計画の概要を伝え、頼み事を口にした俺に、各テーブルに備え付けられている紙ナプキンを手に取ったタマは、その上にペンを走らせ、そのままに席を立つ。  時間にして数秒、間を取った。  カフェの店員が、タマが座っていた席を片付けに来る前に腰を上げ、所在無さげにテーブルに伏せられている紙ナプキンを手に取る。  そこに書かれていたのは、それなりに大手の建設会社名と人物名だった。  書き記されていた建設会社は、綺麗なものでスズシロとしての付き合いを持っても問題のなさそうだと判断する。  スズシロ本社のビルの中、郭遥のオフィスとなっている部屋を訪れた建設会社の担当者と膝を付き合わせていた。  この場所の主である郭遥は、別件で当主と行動を共にしていた。  俺は、当主の居ぬ間に、速やかに事を進める。 「上と下は、別物にしてあります」  言われた通り、見せられた設計図は、2枚に分かれていた。  当主には、1枚目だけを見せればいい。 「金額にはお嬢の手数料も含んでいますので、ご心配なく。こちらからお渡ししますので」  〝お嬢〞と称されたのが、タマであるコトは察しがつく。  そうか。情報を糧として生活しているタマとしては、こういう紹介も金になるのか。  変な気を遣わぬようにという計らいなのだろうと、ビジネスとして動いてくれたタマに心の中で礼を述べた。  当主の目を盗み、じわりじわりと進めていく計画に、形になってきたのは手掛けてから2年を過ぎた頃だ。  この計画の核は地下で、地上階には、スズシロ傘下の企業を入れ、目眩ましに利用する。  建物や、当主の目を欺くための地上階の企業は問題なく配置できたが、肝心の秘密倶楽部の人員集めに苦悩する。  事件屋を廃業し、水商売の世界で頭角を現してきた三崎は、メディア業界にも手を伸ばし始めていた。  郭遥は、メディアに出ている人間を三崎に紹介してもらうコトも考えたらしいが、せっかく裏の世界から離れたのに、また薄暗いグレーなこちらへ引き戻すのも良くないだろうと、二の足を踏んでいた。  三崎に比留間、スズシロ傘下の金融会社など、人員確保に利用できそうな伝は(ことごと)く利用できない。  俺は再び、タマを頼った。 「今度は、キャストを探してるんだ。実質的にサービスをする人間が欲しい」  数秒の空白を挟んだタマは、ゆるりと口を開く。 「直で紹介は難しいかな……。探すなら、メディアを漁るのが手っ取り早いんじゃない?」  そうか、と小さく返す俺に、タマは言葉を繋いだ。 「2週間、待って。こっちでも素材くらいは探してあげられると思うから」

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