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第102話 シュンの心残り
厳つい男たちが闊歩している比留間の本家。
そこに足を踏み入れた僕の異物感が拭えない。
「こっちに来るの珍しいな?」
周りが遠巻きに僕の様子を窺っている中で、珍獣でも見るような瞳で話し掛けてきたのは、古参の戸部だった。
「あ、戸部さん。久し振り」
「若なら、オヤジと会合行ってるからこっちにもいないぞ?」
ふふっと小さく笑む僕に、戸部は首を傾げてくる。
「知ってるよ。僕の用事は、前に綺美から引き上げたテープ。ここにあるよね?」
「ん? ぁあ。2階の物置にあんじゃねぇか?」
僕の性的嗜好を知る戸部は、なんの疑いもなく視線を2階へと飛ばす。
「借りてっていい? あ、鸞ちゃんには内緒ね」
唇の前で、人差し指を立てる僕。
「持ってくのは構わねぇけど。箱と中身が合ってる保証ねぇぞ?」
きゅっと眉根を寄せた戸部の顔は、困惑よりも威圧が勝る。
慣れっこになっている僕は平気だが、周りを歩いていた新参は気配を消して通りすぎるのが精一杯だ。
持って帰ったは良いが、中身が違ったのでは意味がない。
渋くなる僕の顔色に、戸部が声を上げる。
「おい。物置のテープ、2階の園田の部屋に運んでやれ」
そそくさと傍を通り過ぎようとしていた1人を捕まえ、指示を出す。
「園田の部屋なら鑑賞用の機材揃ってるから、確認してけ」
指示された男についていけば良いと僕を見やる戸部に、ありがとうと声を返し、2階へと向かった。
戸部の言った通り、その部屋には大きなモニターに豪華なスピーカーまで完備されていた。
良い機材での映画鑑賞が、園田の趣味なのだろう。
「こんな高級機器で、AV流されるとは思ってないんだろうなぁ……」
申し訳ない気もしなくもないが、テープを運び込まれ、扉を閉ざされてしまえば、戸部の好意を無視するのも憚られる。
ダンボールいっぱいに詰め込まれているテープから数本を手に取った。
噂通りの過激な煽り文句が踊る外装のものが多数を占めていたが、中には恋愛要素を含む作品も見受けられる。
恋愛要素を含む作品の序盤をかけ流し、中身と外装が合っていることを確認する。
痛めつけるような作品はあまり好まないが、恋愛系だけでは心許なく、過激なものも数本、引っ張り出した。
鞭の痕が生々しく残る背中を曝し、自分で自分を抱き締めるような後ろ姿のパッケージが目に止まった。
出演者の欄には〝愁〞と書かれている。
再生をかけたその映像は。
「愁実……」
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