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第104話 足掻いたところで、変わらない
礼鸞への告げ口で、死までを連想する礼鴉に、軽く首を捻った。
虚を突かれたような僕の反応に、礼鴉は言葉を足す。
「若頭と…、俺の親父…と、恋人なんでしょ?」
親父と呼ぶコトに、いくらかの違和を滲ませながら問うてきた礼鴉に、気づいていたのかと声を返す。
「知ってたんだ」
胸に預けていた身体を引き起こし、振り返った僕に、礼鴉は小さな笑みを浮かべた。
「公然の秘密ってヤツ? ちょっかいをかけたなんて知れたら、部下だろうが、…息子だろうが、関係なく殺るでしょう」
あの人ならね…、と他人事のように紡いだ礼鴉は、音もなく流れている映像に視線を向けた。
開口器を噛まされた口から精液の混じる涎を垂らし、鷲掴みにされた髪を引き上げられ、無理矢理に顔を上げさせれた男が映っていた。
外してしまったヘッドフォンに音は聞こえてこないが、荒い息遣いと罵る言葉が飛んでいるだろうコトは感じ取れる。
向けてしまった視線を外せなくなったかのように、礼鴉は画面を見詰め続けていた。
陶酔するような空気を孕む礼鴉に、口を開いた。
「礼鴉、平気なの?」
僕の声に、意識を引き戻されたかのように礼鴉の瞳がこちらへと向く。
何が? と問うように見詰めてくる礼鴉に、言葉を足した。
「男同士のこんな映像見て、気持ち悪いとか、ないの?」
虐 げるコトも、痛めつけるコトも、男同士であるコトも。
全てが嫌悪の対象になっても、おかしくはない。
「…ぁあ。俺、何本か見てますし……。むちむたした女の身体より、洗練された男の筋肉の方が興奮するんですよね……」
うっとりとした空気を含む礼鴉の声音に、本心なのだろうと察する。
「そっちのと、あと箱の中からも何本かを持ってくつもりなんだけど。お気に入りあるんなら、置いてくけど?」
首を傾げる僕に、腰を上げた礼鴉は、寄せてある恋愛系には目もくれず、ダンボール箱を漁る。
「これとこれ……あと、これかな」
礼鴉が選んだものは、傷や痛みを与えるようなグロテクスな作品だった。
無意識に顔が引き攣っていたらしい僕に、礼鴉は呆れ混じりの笑みを浮かべた。
「自分がおかしいコトくらい、わかってるんで」
諦めが浮かぶ声は、淡々と人とは違うであろう礼鴉自身の曲がった性癖を語る。
「痛みに歪んだ顔とか、プライド粉々にされて生気を失った顔とか、…それでも気持ち良さげに恍惚としてイッてる顔とか。普通の人はきっとそんなんじゃ勃たないんでしょうけど……」
ふっと鼻から逃がされた息は、今さら足掻いたところで変わりようがないとでも言いたげな色が滲んでいた。
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