105 / 146

第105話 どこかが欠けた歪な人間 < Side 礼鴉

 小さな頃から、柄の悪い大人が周りにいた。  俺の名前を聞けば、大概の人間は距離を取った。  学校に行けば、バカ騒ぎをする仲間はいたが、虎の威に群がる狐たちに過ぎなかった。  本音を曝けだせるような、肩肘張らずに付き合える相手など居なかったが、寂しくはなかった。  住む世界が違うのだから、馴れ合えるはずなどないと知っていたから。  俺には、母親がいない。  その代わりというわけではないが、父親は沢山いる。  比留間の人間全員が、俺の親代わりだ。  俺は、比留間の人間に代わる代わる面倒を見られていた。  その中でも、園田が一番、傍にいる時間が長かった。  父親だらけのこの家で、本当の自分の親は、誰なのか。  そんな疑問を抱き、訊ねたコトもあった。  園田は、なにも隠さずに全てを話してくれた。  祖父は比留間の(かしら)であり、若頭である礼鸞が父親で、20歳の時の子供だ、と。  母親は、ここには居ない。  比留間に嫁げば安寧な生活など望めないから、母は、俺を置いて出ていったと聞かされていた。  安寧な生活と子供を天秤にかけ、前者を選択する者など、いるのだろうか……。  それは、子供に愛情が無いというコトに、他ならなくて。  その上、実の父親である礼鸞は、祖父や比留間の人間以上に俺に興味がなかった。  俺は両親に愛されていないのだと、痛感しただけだった。  特殊な環境下は、俺をどこかが欠けた(いびつ)な人間に育てた。  告白され、女の子と付き合ったコトはある。  手を繋いでも、キスをしても、俺の心臓は、キュンともしなければ、ドキドキと高鳴るコトもなかった。  女を抱けないコトもなかったが、悦ばせてやろうとは思えなくて。  勝手に股がって、腰を振っている女を冷めた瞳で見やるのが精一杯だった。  会いたいとか、恋しいとか、想ったコトなんて一度もない。  ただ、面倒臭いとしか思えなかった。  高校2年の頃。たまたま見つけたのが、『綺美メディア』のAVだった。  痛みを与えられながらも、恍惚とした表情を浮かべる男たちに、腹の底が熱くなった。  ……自分は〝普通〞にはなれないのだと、気がついた瞬間だった。  俺なんて居なくとも。子供など作らなくても。  戸部や柴田、園田まで、俺以上にこの比留間()を守っていける人材は豊富だ。  ならば、俺が生涯独身でも、…普通になれなくとも、なんの問題もないだろうと、家族を作るコトは早々に諦めた。  足掻くコトを諦め、自分の性癖を受け入れた……。

ともだちにシェアしよう!