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第108話 三崎と天原、そして俺

「あいつらは、そっくりだ……」  スズシロの本社ビルで、書類整理をしながら、郭遥がぽつりと声を零す。  JOURを裏と捉えるならば、俺の仕事は表、…公の世界で幅を利かせるスズシログループ頭領である郭遥を支えるコトだった。 「あいつら?」  言葉が示す人物の想像がつかず、鸚鵡返しする俺に、郭遥の瞳がちらりとこちらを一瞥する。 「三崎と天原だよ」  事件屋として動いていた三崎に拾われ、仕事のいろはを仕込まれた天原。 「仕事でもプライベートでも…四六時中一緒にいたのなら、似ても不思議はないんじゃないですか?」  24時間365日、共に居たのだから、天原が三崎に似るのは当たり前なのではないかと声を返した。 「大事なもの、自分から捨てるところがそっくりだって話だよ。三崎は天原を、天原は明琉を……大事だからこそ、手放した」  馬鹿な奴らだと、郭遥は顔を顰めた。  郭遥の手により社判の捺された書類を引き取り、新たなものを差し出す。  郭遥の瞳は書類の文字を追っていたが、その意識は会話に宿る。 「三崎が事件屋を廃業したのは、天原から離れる為だったんだ」  言葉の真意が掴めない俺は、ぽつりぽつりと呟かれる郭遥の声に耳を傾ける。 「三崎は天原に〝恋しい〞っていう表現が一番しっくりくる感情を持っていた。でも、人を深く愛せない自分では天原を幸せに出来ないって、天原からの告白を断った過去があったんだ」  サインをするためにペンを手にした郭遥は、書類を睨める。  書類の内容が気に食わないのもあるだろうが、大半は三崎の過去の決断に対する不満の現れだろう。 「断ったからと三崎が天原を想う気持ちは、変わらなかった。天原だって、直ぐには忘れられなかっただろうよ。……お互いに好意を持っていて、一緒に仕事をして、四六時中一緒にいるんだから、気持ちは褪せようもないよな。そんなの、苦しくない訳がない」  想い合っているのに通じ合えない感情に共感を示した郭遥は、首周りを締めるネクタイに息苦しさを覚え、指をかけ、軽く緩める。 「良く言えば、三崎は天原のために身を引いた。でも、それは……〝逃げ〞だ。向き合うのが怖くて、逃げ出したんだ」  くっと眉根を寄せた郭遥は、言葉を繋ぐ。 「そして天原は、明琉から逃げた。俺を頼るなり、三崎に頼むなり、…手法なんていくらでもあるのに、自分は明琉を守れないと早々に決めつけて、怖じ気づいて逃げたんだよ」  三崎が天原を幸せにしてやれないと思ったのと同じ理屈だ…と呟いた郭遥は、ふっと嘲るような息を吐く。 「俺も……、か」  ははっと呆れ混じりに笑った郭遥に、俺は眉を潜めた。

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