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第111話 忠義より命 < Side 礼鴉

「出掛けるんすか?」  真っ黒なセダンを磨き上げているのは、黒藤と共に居た男、河堀(かわほり)だ。  1年前、黒藤たちを潰してくれと郭遥からの依頼を受けた。  佐鮫から追い出されたとはいえ、黒藤はそれなりの力と頭を要していて、比留間にとっても目の上のたんこぶだった。  そこに舞い込んできた郭遥からの駆除依頼となれば、礼鸞が請け負わないはずはない。  だが、比留間の若頭が出張るほどの相手でもないく、経験値稼ぎとしてちょうど良いだろうと園田と共に片付けろと俺にお達しが下った。  血気盛んな若い者たちが先陣をきって乗り込んだ。  派手に暴れる彼らに、蜘蛛の子を散らすよう逃げを打つ黒藤の取り巻きたち。  黒藤の配下の連中は、どいつもこいつも薄情この上なかった。  根城にしているビルに乗り込んだ俺たちに、我先にと黒藤の情報を売り込んでくる始末だった。  嘘を吐かれ、騙そうとしているのではないかと暴行を加える園田に、この場ではそれなりの立場があったのだろう河堀が、俺へと手を伸ばす。 「嘘なんて吐いてないっ。頼むからっ、なんでもすっから……っ」  命だけは助けてくれと、泣きながら許しを乞うてくる。  ボコボコに伸され、傷だらけの姿で縋りついてくる河堀を見下げ、俺の口端がくっと持ち上がった。  無意識に、顔がニヤついていた。  怒っているか。呆れているか。  どちらかの感情のはずなのに、にたりとした楽しげな笑みを浮かべてしまった俺に、縋るように伸ばされていた手は、恐ろしいものに出会(でくわ)してしまったと後悔するように、慌て引っ込められた。  河堀から得た情報を元に、黒藤の所在地に数名を向かわせた。  だが、その場に黒藤は居なかった。  不穏な空気を察知した黒藤は、俺たちの手が伸びる前に姿を眩ませた。  黒藤を捕らえなれなかった苛立ちに、園田は、河堀のこめかみに銃を押し当てた。  河堀は諦めの境地で、座り込んだままに動かない。  銃身に手を置き、河堀を狙う園田の手を下げさせる。 「ダメっすよ。若に、ちゃんと始末しろって言われたでしょ?」  礼鸞には、黒藤も残党も、跡形もなく消せと命を受けていた。 「もう少し、情報引っ張れんだろ? 黒藤もまだ捕まえてないし……」  河堀の首根っこを掴み、車へと引き摺った。  運転席の扉を開き、頭を突っ込ませる。 「他にも思い当たる場所、あんだろ? おまえが案内しろ」 「こいつに運転させる気っすか?」  心中なんて御免だと、俺の腕を掴む園田に、ふっと鼻で笑ってやる。 「こんな情けない姿で命乞いしてくるような根性無しに、そんな大層なコトは出来ないよ。こいつは、黒藤への忠義より自分の命を選んだ。なら、俺に仕えさせるまでだ」  それで良いんだよな? と、掴んだ首根っこを揺さぶる俺に、河堀は両手を上げ、降伏を宣言してくる。 「わかりました。でも、運転はオレがします」  園田の握力は緩まらず、俺の腕ごと車外へと引き摺り出す。  掴んでいる汚いものを振り落とすかのように腕を揺すられ、俺は河堀の首根っこを解放した。

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