112 / 160
第112話 自分専用の〝駒〞
地面へと落ちた河堀を拾った園田は、腹立たしげに助手席へとその身を放り込む。
「変な気、起こすなよ。頭 ぶち抜くかんな?」
園田なら、やりかねない。
園田は、車を運転しながらでも平然と引き金を引く。
後部座席に乗り込み、伸ばした手で助手席に座る河堀の頭をぽんっと叩いた。
「大人しくしてるのが身のためだよ。こいつ、平気で殺るから」
ははっと笑う俺の手に、ぶるりとした河堀の震えが伝わってきた。
河堀が思い当たる場所を回ったが、黒藤は見つけられなかった。
比留間に目をつけられたと勘づいた黒藤は、完璧に自分という存在を消した。
比留間の力を使えば、見つけ出して始末するコトも容易だったが、あえて自分の失態を露呈するような捜索をするのは悪手だ。
黒藤自身、頭は切れるが、腕っ節は強くない。
だからこそ、こうして自分の周りを傭兵で固めている。
黒藤1人くらいなら、逃したところで出来るコトも知れているだろうと、黒藤潰しの仕事は、そこで打ち切った。
河堀を連れ帰った俺に、礼鸞は嫌な顔をした。
俺は、自分専用の〝駒〞が欲しかった。
礼鸞が連れている柴田のような、俺だけの駒。
昔から傍に居た園田は、じいさんの駒であり、俺のものではなかった。
「黒藤んとこから拾ってきたのか……」
呆れ混じりの嫌気が滲む音で紡がれた言葉に、捨ててこいと言われるコトも覚悟した。
「お前が面倒見るってんなら、別に構わねぇよ」
好きにすれば良いと、礼鸞は不干渉を決めた。
出掛けるのかという河堀の言葉には答えずに、俺は車に乗る。
河堀は、車を磨いていた道具を適当にまとめ置き、運転席へと乗り込んだ。
「ご機嫌ナナメっすね」
バックミラー越しにちらりと投げられる河堀の視線を、一瞥で弾き返した。
今頃になり、黒藤らしき人物の噂がちらほらと上がり始めていた。
黒藤を仕留め切れていないコトは、園田を通して礼鸞に筒抜けている。
比留間 の目が光っているのだから、あいつも簡単にはのさばって来ないだろうと、礼鸞は高を括っている。
黒藤が、暴れようが大人しくしてようが、そんなのはどうでも良かった。
ただ、黒藤の名が耳に入るのが気に食わない。
まるで俺の仕事の穴を突っつかれている気がして、腹底がぐつりと音を立てた。
「ストレス発散にうってつけの場所、案内しますよ」
怪訝な視線を向ける俺に、河堀は、にんまりとした笑みを浮かべ、車のエンジンをかけた。
ともだちにシェアしよう!