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第113話 面白くも可笑しくもない
コンクリートが剥き出しで、所々、内部の鉄骨すら見えているような廃れた建物の廊下を進む。
この廊下を照らす光源は、裸電球の薄暗いオレンジだけだ。
幾度か下った階段と窓のない廊下に、ここが地下であるコトはわかっていた。
「どこに連れていく気だ?」
不審がる俺に、河堀はタンタンっと軽快な足音のままに先へと進んでいく。
目の前が開け、小さなスタジアムのような光景が広がる。
中央のリングのようなステージを囲む、すり鉢状の観客席。
それなりの動員がありそうな席数だか、観客は疎らだ。
「こっちっすよ」
観客席の中段辺りに出たらしく、階段を登りながら振り返った河堀に手招きされる。
最上層に設置されたガラス張りの部屋へと案内された。
VIPルームにでも招かれたのかと思ったが、扉には〝OWNER〞の文字が記されていた。
俺の運転手業務とは別に、河堀が手掛けているシノギなのかと、さほど気には止めなかった。
部屋の中央に鎮座する革張りの高級なソファーに誘われ、素直に腰を据えた。
部屋の両サイドに置かれた腰ほどの高さのテーブルには、シャンパンやワインクーラーが置かれ、フルーツや軽食までもが完備されていた。
広く取られた間口から、客席が一望できた。
中央のステージは、別に用意された大型モニターに映し出されている。
「どいつに賭けます?」
空のステージを映している大型モニターの下方に、競馬の出走馬でも紹介するように色分けされた番号と顔写真が並べられていた。
どんな試合が行われるかもわからない状況で、誰に賭けるかと問われても答えようがない。
眉根を寄せる俺に、河堀は5番の出場者を指し示す。
「5枠のマル。あいつが本命っすよ」
「なら、お前がそいつに賭ければいい。俺はやらない」
河堀の誘いを蹴り、より深くソファーに身体を沈めた。
ワインクーラーから取り出した冷えたワインをグラスに注いだ河堀は、それを俺へと勧めてくる。
「賭けもしないで見てたって、つまんないっすよ」
俺の好みを熟知している河堀が注いだワインに口をつけ、呆れ混じりの声を返した。
「そもそもここは何なんだ? 何の説明もなく賭けろと言われたって、面白くも可笑しくもない」
口を潤すワインを嚥下し、空になったグラスを河堀へと突っ返す。
訳のわからない賭け事への誘いに、俺のストレスは解消されるどころか増す一方だ。
「あ。そうっすよね」
たははっと笑った河堀は、ぐるりと視線を一周させ、言葉を繋ぐ。
「あん中の誰が勝ち上がるかを賭けてるんすよ。一応、刃物は不可っすけど、人によっては鉄パイプ的な武器を与えられる奴もいて、相手を戦闘不能にしたら勝ち。でも、殺したら反則負けって感じっすかね」
河堀の説明に、俺はますます顔を顰めた。
先程、本命だと示された人物は、武器は与えられていない。
さらに、周りの屈強な出場者に比べ、細く頼りない。
どう考えても、いち早く脱落しそうだ。
「あいつ、負けそうだと思うっすよね? そこがミソなんすよ」
河堀は、にやりと底意地の悪そうな笑みを浮かべた。
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