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第117話 歪んでしまった顔
売れ残った僕に目をつけた白藤。
にんまりと笑む顔は、ほの暗さを纏っていて物恐ろしさを感じた。
僕の頬に触れ、汚れを拭うように親指を走らせた白藤は、その手で首を絞めてくる。
ここで窒息させられても、首を折られて殺されても、行き着く先は変わらないんだろうと、抵抗はしなかった。
ぱっと手を放した白藤は、ぐるりと周囲を見回し、少し離れた場所にいる〝売りもの〞にも手を伸ばす。
「それは売約済みで……っ」
男の制止など聞こえていないかのように、白藤は〝売りもの〞を殴りつけた。
何が起こったのかわかっていない〝売りもの〞である彼は、殴られた場所を手で覆い、小さく縮こまる。
「ごめんなさい、ごめん……、ごめんなさ……っ」
ぶつぶつと、意味もわからず謝る彼に、僕は顔を歪めてしまった。
「自分には無頓着だけど、片割れを作ってやれば、使えそうだな」
嫌悪の思いが零れてしまった僕の反応を見て、白藤は笑みを深める。
「これとこれ。…こっちはもう売れてるんだっけ? 倍額で買い取るなら問題ないだろ?」
僕と縮こまり意味のない謝罪を繰り返す小さな塊を指差した白藤に、仕方がないという風体を装った男は、話をまとめた。
そうやって、白藤に買われたのが9ヶ月前の話だ。
名前がないと不便だと僕にマル、もう一人にペケと名付けた白藤。
「同じところから買ったから、君たちは兄弟だね。マル。自分のために頑張れないなら、弟のペケのために頑張ってね」
人形でも差し出すかのように、ペケを僕の前に置いた。
振り上げられる手に、ペケは反射的に頭を抱え、身体を強張らせる。
僕は黙って、ペケと白藤の間に身体を入れた。
僕の行動に、白藤の瞳がきょとんと丸くなる。
「ぁ。違う、違う」
振り上げられた手が静かに下ろされ、代わりに白藤の口角が持ち上がった。
「代わりに殴られろって訳じゃなくて、地下の格闘場で戦ってほしいんだ」
大したコトのないお願い事を語るかのように、ニコニコと軽い口調で紡がれた。
「あの場所は、強い駒を持っている人間が支配人になれるっていう暗黙のルールがあるからね」
白藤は、オレを王様にしろと、容易く言って退けた。
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