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第120話 底意地の悪さが浮き上がる < Side 礼鴉

 白藤の案内で入った部屋は、3畳ほどの小さなスペースだった。  片隅に小さな箱が置かれているだけの殺風景な部屋だ。  マルも含めた男4人が収まると息苦しさを感じる空間に、河堀は外の車で待機すると出ていった。  この場所へ移動する道中で、白藤は楽しそうに言葉を紡いだ。 「強いはずの男性が、苦痛に顔を歪めながらも昇天する姿は、なかなかに(そそ)りますよ」  そういう嗜好をお持ちですよね? と、俺の密やかなる性癖を暴こうと、白藤の笑顔がこちらを見やる。  たぶん、既にバレている。  手慣れた様子で〝OWNER〞と書かれた部屋へと誘った河掘は、黒藤の殲滅に向かったときに拾ってきた人間で、あの場で俺の笑む姿を見ていた。  綺美のテープを隠しもせずに置いてある俺の部屋に、何度となく入っている河堀が、知らないはずがない。  初対面で、敬称をつけ俺の名を紡いだ白藤。  河堀が知っている情報は、白藤にも筒抜けていると考えるのが妥当だ。 「私はその姿に性的な興奮は感じませんが……」  趣味は人それぞれですから、と気遣う素振りを見せた白藤は、言葉を繋ぐ。 「屈強な人間が自分の前で膝を折る姿は、堪らなく気分が良い……」  ふふっと小さく漏れる笑いは、人を虐げる優越感に塗れていて、白藤の底意地の悪さを零れさせた。  白藤からペットボトルと赤い麻縄を受け取った上半裸のマルは、飲料で喉を潤わせる。  徐にペットポトルを床に置き、手にした麻縄を俺へと突き出してきた。  何をしてほしいのかを理解できていない俺は、首を傾げるしかなかった。 「ちゃんと説明してあげなきゃ」  呆れが混じった声を放ったのは、白藤だ。  白藤は、小さな箱を拾い上げ、入口の傍の壁に背を預け、じっとこちらを見やっていた。 「縛ってください。反射的に、手が出てしまうので、僕を拘束してください」  解せない顔で紡がれた言葉に、悦んで受け入れているという訳ではないのだろうと知る。 「その上で、僕に痛みをください」  麻縄を掴んだ手を、俺の前に突き出しながら、マルは頭を下げてくる。  これのどこが褒美なのだと腹底がぐつりと沸く。 「そんなに嫌なら、今日は別の褒美でも……」  美味しい食べ物や、温かい風呂に浸かるのも良いのではないかと口を開いた俺に、マルの鋭い瞳が不服げに睨みを利かせた。 「これを、どうにかしたいんです」  ぐっと堪えるように紡いだマルは、俺の手首を掴み自分の股間へと導いた。  手の甲に触れたのは、硬くなった雄芯だった。

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