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第121話 捩じ曲げられた性癖

「こらこら」  マルの中心に軽く触れた瞬間、音もなく傍に寄った白藤の緩い叱咤が飛んだ。  マルの肩がぴくりと跳ね、俺の手首を掴む指先に力が入った。 「触らせるなら、ちゃんと伝えなきゃ。気持ち悪いって思う人間もいるんだよ」  そう呟く白藤が、同性の性的な部位に触れるコトを嫌がっている気がした。 「俺は平気だ」  言葉を紡ぎ、手の甲に触れていたそれを指先で撫で上げる。  俺の動きに、マルの口から小さな吐息が零れた。 「痛みが僕にとっての最高の褒美、…なんです」  悔しいけれど否めない、そんな空気が声の端々から、ひしひしと伝わってくる。 「気持ちいいだけだとイケなくて。痛くして、ほしくて……。でも」  無意識で反撃してしまう自分が疎ましいと、マルの指先が小さく震える。  躾により捩じ曲げられた性癖を受け入れ、痛みを欲する。  痛みや苦痛でしか達するコトの出来ない身体を呪いながらも、飲み込むしかないといった様相だった。  だから、反射的に抗って暴れないように拘束を望む。 「わかった。でも、先に手当てしないか?」  赤から紫へと変貌を遂げていくマルの腕に浮かぶ殴打の痕に視線を据えた。  横から伸びてきた白藤の手が、粗雑にその場所を掴んだ。 「………っ…」 「折れてはいないよね。どうせ傷は増えるんだし、あとでまとめての治療で問題ないよね?」  白藤のあっさりとした声は、息を飲むマルの反論を許さない。  疑問の体を取りながらも、白藤の言葉は否とは言わせない空気を侍らせていた。  こくりと頷いたマルは、再び俺に麻縄を差し出してくる。  受け取る他の選択肢が見出だせない俺は、マルの手に握られている麻縄を受け取った。  だが、今まで捕縛するために縛ったコトはあれど、動きを封じるための拘束は経験がない。  迷う俺に、傍らで様子を見ていた白藤が麻縄を拐った。 「私がやりますよ」  背後へと移動した白藤に、マルは大人しく両腕を背に回す。  しゅるしゅると音を立て、マルの身体が麻縄に捕らえられていく。  呼吸が荒くなっていくマルの姿に、拘束されるコトすら興奮の材料なのかと感じた。 「これから与えられる褒美が待ち遠しい……?」  はしたないね、と白藤は盛り上がる股間を見据え、楽しげに喉奥で笑う。  赤い麻縄に彩られたマルは、紅潮する肌も相まって、俺を(かどわ)かすのに充分な色気を放つ。  今すぐにでも手を伸ばしたいと思う反面、実践経験のない俺は、どれほどの力加減でどんな痛みを与えればマルが満足するのかの想像がつかず、躊躇する。 「道具は、ここに」  思い惑う俺に、白藤の声がかかる。  白藤の手が掴んでいる小さな箱の中には、鞭やピンチ、レザーの拘束具が雑多に格納されていた。 「道具はお気に召しませんか?」  白藤の顔に浮かんだ困惑の色は、あくまで表面上のものだろう。  道具ではなく自分の手で触れ、感じさせたいのかと勘繰った白藤の口角が吊り上がっていた。  ゆるりとした動きで箱を床に置いた白藤は、にんまりとした笑顔で言葉を繋ぐ。 「乳首でも(つね)ってやって下さい。最後に〝逝け〞って、命令すれば果てますから。私は、しばらく席を外しますので……」  いない方が存分に楽しめるでしょ? と、嫌味な思惑を含ませた白藤は、小さく頭を下げ、部屋から出ていった。

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