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第128話 無意味な講釈
黒藤の残党である河堀が礼鴉の傍に仕えているコトは、郭遥の耳にも入っているだろう。
黒藤の逆鱗に触れてしまった天原。
その天原が大切にしていた浅岡。
黒藤は、天原への直接的な制裁とは別に、大事な存在である浅岡を壊すコトを企んでいた。
礼鴉により黒藤の出鼻は挫かれたが、浅岡を匿っている郭遥にしてみれば、比留間の傘下に下ったとしても、危険分子を近寄らせたくはないだろう。
「わかってる」
うるさいと言いたげに紡がれた声に、郭遥は、小さな息遣いで重苦しい空気を一蹴した。
「礼鴉を雇う形になったら、こっちもお前らの力、アテにするからな」
ふんっと言葉を放つ郭遥に、礼鸞は笑い混じりの声を返す。
「かまわねぇよ。キャストも足りねぇんだろ? 見繕って、手土産代わりに持ってってやるよ」
「今さらだが、……大丈夫か?」
一瞬の間を挟み、問いかけてきた郭遥に、僕も礼鸞も首を傾げた。
「なにが?」
「お前のいう〝裏〞だよ」
2人の間で〝裏〞と称されているJOURは、完全会員制のゲイ風俗だ。
郭遥が懸念しているのは、店の特殊性だろうと、気がついた。
ゲイという概念に、偏見や忌避を持つ者は少なくない。
同時に、礼鸞も郭遥の意図に気づいたらしく、顔を歪めた。
「キャストで使う気かよ?」
声のトーンを下げ、そんなコトはさせないと、苛立ちを露にする礼鸞に、郭遥は否定の言葉を紡ぐ。
「いや。管理側で働いてもらうつもりだ。だけど……」
「なら問題ねぇよ」
礼鸞は、郭遥の杞憂を一蹴した。
「そこを突っ込むなら、礼鴉の方がマニアックだと思うぞ」
はっと息を吐いた礼鸞は、重たげな声で言葉を繋ぐ。
「あいつは、加虐心が強すぎるんだよ。…お前に〝一般的〞な方向に導いてほしいくらいだよ」
礼鸞は、自分たちが住まう荒れた世界に居るからこそ、あんな趣味嗜好を持ってしまったのではないかと勘繰っていた。
「一般的……か。それは無理な話だな。講釈をたれたところで、好みなんて変わりようがないだろ」
何を馬鹿なコトを言っているのだと、郭遥の言葉は続いた。
「俺の下の息子、…遥征も、女よりは男に興味がありそうなんだ。だからって、女を好きになれって言ったところで、変わるもんでもないだろ」
郭騎は郭騎で、同性愛を毛嫌いしてるし……と、郭遥の深い溜め息が、耳に届く。
「礼鴉も礼鴉なりに悩んでるんじゃないか? 傍から口を挟んだところで、礼鴉の性癖が変わる訳じゃない。俺たち親は、見守るしかない。それしか出来ない……」
諦めろとでも言うように放たれた言葉に、礼鸞は天井を仰ぐ。
「礼鴉の人生は礼鴉のもので、俺たち親のものじゃない。出来るコトと出来ないコトがあるのはお前もわかっているだろ」
詰めるような音を纏って届く言葉に、礼鸞の肩がゆるりと落ちた。
「まあな」
わかっていると紡がれた言葉に、深く重い溜め息が続いた。
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