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第129話 JOURの管理者 < Side 礼鴉
目的地へと向かう車内の運転席に座るのは、河堀ではなく園田だ。
今日の行先に、絶対に河堀は連れていくなときつく言われていた。
着いた先は、スズシロ所有のビルだった。
河堀を同行させるなと言った礼鸞に、合点がいく。
黒藤を潰せと命じてきたスズシロに、残党である河堀は天敵に他ならない。
そんな輩を連れてきてしまっては、穏便に済むはずの事柄も拗れてしまう。
コンサルタント会社や法律事務所、警備会社などのスズシロ傘下の堅苦しい事業名が並ぶ中、1階には隠れ家的なバーが入っていた。
礼鸞からは、話はついているからそのバーに行けとしか言われていなかった。
園田は車で待機させ、1人でバーの扉を潜った。
全体的に黒で統一された店内は、しっとりと落ち着いた空気感で、それほど広くはない。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうから放たれた声は、ゆるりとした穏やかなものだった。
バーテンダーの顔を視界に捉えた俺の眉が、ぴくりと揺らいだ。
そこに居たのが、綺美メディアの映像に出ていた人物だったからだ。
「オレの昔を知ってる感じか」
困ったなとでも言いたげに声を零す男に、思わず瞳が游いだ。
入口で佇んでしまった俺に、男が口を開く。
「オレの下で働くのが気に食わないっていうなら、断ってくれて構わないよ」
比留間の方に話を通してくれればね、と紡いだ男は、決断を俺に委ねる。
現状が理解できていない俺は、男の言葉に待ったをかけた。
「ちょっと待って。…俺は話はついてるからここに行けって言われて来ただけなんだ。…俺はここで、あんたの下で働くのか?」
問う俺に、男は呆れを露にする。
「丸投げにも程があるだろ……」
ったく、と顔を歪めた男は、目の前のカウンターを指先で弾いた。
とりあえず座れ、と顎をしゃくられ、大人しく男の目の前に腰を据えた。
「ここがどういう場所かはわかってる?」
首を傾げてくる男に、ぐるりと周りを見渡し、口を開いた。
「スズシロがやってるバー……だろ?」
「オレが誰だか、は? 名前は?」
オレの顔に反応したよな? と、視線で問うてくる男に、小さく頷き素直に言葉を返した。
「あぁ。AVで見たことがあるだけで、名前までは知らない」
そこからかよ、と再び呆れを露に自己紹介を始めた。
「オレは愁実 任。この下でやってるJOUR…完全会員制の秘密倶楽部の管理を任されてる」
とんとんっと、カウンターを指先で叩いた。
「JOURは、平たく言えば、ゲイ風俗だ。君をそこで雇う予定で、今日は面接」
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