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第131話 凌久への探り
JOURで働き始めて、少し経った頃。
俺は、彫り師の凌久の元を訪れた。
「やっと入れる気になった?」
俺の顔を確認した凌久は、にまっとした笑みを浮かべる。
比留間の人間の刺青は、凌久の手により描かれていた。
刺青を背負っていない俺の肌に、鮮やかな色を入れたい凌久は、顔を見る度に、描かせてくれるのかと、問うてくるのが常だった。
「いや。ちょっと聞きたいコト、あるんだよね」
凌久の店に足を踏み入れ、今まで描いてきたデザインが載る紙を、ぱらぱらと捲った。
「なんだ。客じゃないのかよ……」
詰まらなそうに口を尖らせた凌久は、傍にあった丸椅子に、どかりと腰を下ろす。
「で? なに?」
本来の仕事でないのなら、さっさと用を済ませてしまいたい凌久は、作業台に頬杖をつき、小首を傾げる。
「最近、変な探りを入れられたりしてない?」
捲り当てた白いユリの刺青デザインに視線を落としたまま問う俺に、凌久は訝しげな空気を醸す。
問い掛けに声を返さない凌久に、質問を変えた。
「この子、来なかった?」
胸ポケットから写真を取り出し見せる俺に、凌久は真の狙いは何なのだと眉を潜める。
「その顔は、来たってコトか……」
彫り師の数自体も少ない上に、凌久の手腕は超一流だ。
それに、記憶を頼りに同じものを掘りたいのなら、同一人物に頼むのが手っ取り早い。
「コレ、入れたんだろ?」
写真をずらし、白いユリのデザインを指先で叩いた。
凌久に探りを入れてほしいと頼んできたのは、郭遥だった。
凌久に見せた写真の男と俺の間に、接点はない。
写真の男は、三崎が管理しているメディアから出されている〝委員長の小鳥シリーズ〞の演者、夕波 羽雨 。
羽雨と接点があるのは、JOURで共に働いている浅岡だ。
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