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第137話 俺の失態には変わりなく

 危険を冒してまで、俺をあの場に呼んだのは、一か八かの賭けだった。  自分の背後には比留間が存在するのだと匂わせ、はったりをかます為に利用されたのだ。  忌々しさに、腹が煮えた。  考えるより先に動いた身体は、柴田に拘束されたままの河堀の腹を真横から蹴り抜く。 「……っっ」  内臓を圧迫され、押し出された空気が、畳の上へと血塗れの唾液をばら撒いた。  河堀を無条件に信頼してしまったコトも、白藤という人物の素性を探らなかったコトも、俺の失態に他ならない。  自分の駒が欲しくて、連れ帰った河堀に裏切られ、逃がした黒藤にいいように利用されてしまった。  がほごほと鳴る河堀の咳き込む音が、余計に俺の苛立ちを煽った。 「もっと早く伝えてあげれば、よかったね?」  ごめんね、と謝ってくるタマに、俺は険しい顔つきのままに眉根を寄せた。  こんな簡単なコトも見抜けなかったのかと呆れられるとばかり思っていた。  反旗を翻した人間を安易に信頼するなど、脇が甘いと叱られるとばかり思っていた。 「いや。疑いを持たなかった…気付けなかった俺が鈍かっただけ、だから……」  当てどころのない苛立ちに、噛み締めた奥歯が、ぎりりと鳴る。 「オレも礼鴉は気づいてると思ってたしな。わざとに知らん顔して、信用させて、あの場所を乗っとる絵図でも描いてんのかと思ってたわ」  いつ吊るし上げてくんのかと手ぐすね引いて待ってたんだけど、なあ? と、脅し紛れの礼鸞の瞳が俺を睨めた。 「仕方ないよ。黒藤本人に会ったコトもなければ、接触したコトすらないんだから、顔変えられちゃったら、わかるわけないじゃん」  俺を庇ってくれるタマに、礼鸞は面白くなさそうに反論する。 「黒藤のコト気にしてれば、わかりそうなもんだろ」  あんなでかい所で、河堀が我が物顔でいられるはずがない、と礼鸞は瞳に呆れを浮かべた。 「河堀は俺の下についたし、黒藤の件はもう決着したと思って……」  腹心である河堀が、俺の配下に入るコトで、黒藤1人を取り逃がしたところで、なにかをしでかす力はないと高を括っていた。  終結と考えていたという俺に、礼鸞は、ふざけているのかと顔を顰めた。 「黒藤に逃げられて、終いにするわけねぇだろ」  勝手に片付けるなと、言外に叱ってきた礼鸞は、呆れ混じりに言葉を繋ぐ。 「いいように使われて、顔に泥塗られて……。お前は、どう落とし前つけんの?」  比留間の看板に泥を塗っておいて、お咎めなしとはならないだろう。  間違いなく、河堀のような俺専用の駒は取り上げられ、2度と与えてもらえないだろう。  だが、それだけでは、あまりにも温すぎる。  どんな無理難題が吹っ掛けられるのかと、視線を落とす俺に、タマが口を挟む。 「それを言うなら、黒藤に比留間の坊っちゃんを手にかける程の度胸も、無謀さもないだろうからって野放しにしちゃってた僕も共犯でしょ?」  ぼそりと声を放ったタマは、申し訳なさそうに礼鸞の顔色を窺う。  悄気るタマの姿に、礼鸞はしれっと口を開く。 「オレは、こいつに聞いてんの」  俺を顎でしゃくった礼鸞は、じっとりとした視線を向けてくる。 「俺、は………」

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