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第138話 狡猾な大人たち
なにをどうすれば、汚名を返上できるのか。
俺の愚鈍な頭では考えが及ばず、顔を伏せ、口を噤んだ。
正解がわからずに肩を落とす俺に、礼鸞のあからさまな溜め息が降りかかる。
「黒藤を処分して、あの場所ぶん取ってこい。多少、手荒くても問題ねぇ。……なんなら、ぶっ潰しても良い」
しくじってしまった俺に、また任せてくれるのかと上げた瞳に、礼鸞の仕方ないと言わんばかりの顔が映る。
「なにかあれば尻拭いはしてやる。……お前はまだまだ半人前だ。完璧にこなせないのなんて、重々承知なんだよ。でも、途中で投げ出すのは違う」
柔らかかった表情に、叱咤の色を浮かべた礼鸞は言葉を繋ぐ。
「最後まで責務を果たせ。手が足りねぇなら、貸してやる。こんな不義理を働くような粗悪な舎弟は、使うな」
俺に視線を据えたままに背後へと流した拳に、手の甲が河堀の鼻を潰した。
がくりと項垂れた河堀に、柴田は拘束していた手を離す。
河堀の身体が、顔から床へと崩れ落ちた。
拳を広げた礼鸞は、こびりついた血や体液を振り払う。
「人を見る目を養え、いいな?」
恫喝めいた空気を纏い俺を見詰める礼鸞に瞳を据え、瞬きと共に頷いた。
「あそこってさ、一番強い駒を持ってるヤツがオーナーっていう仕組みみたいなんだけど……」
俺たちの間に飛び込んできた声に向けた瞳には、首を傾げるタマの姿が映る。
「乗っとるなら、誰か活きがいいヤツ連れてくか?」
腕っ節に自信のあるヤツがいいよなぁ、と礼鸞は視線を游がせる。
「そんな正攻法じゃなくて、良くない?」
狡猾さの滲む、にんまりとした笑みを浮かべるタマに、礼鸞は疑問符を浮かべる。
「あいつら比留間の看板、勝手に掲げちゃったワケでしょ? そんなのもう、僕たちの物じゃない?」
ふふっと楽しげに笑むタマに、礼鸞は確かにと、口角を上げる。
「ぁあ、そうだな。黒藤を始末するだけで事足りるのか」
タマの言葉に気づかされた礼鸞は、俺を見やり、仕事が減って良かったな? と狡く笑った。
黒藤を消してしまったら、マルとペケはどうなるのかと一抹の不安が過った。
「黒藤を始末したら、その……」
黒藤の手駒であろうマルとペケ。
河堀での前例がある以上、彼らも一緒に処分するしかないのだろう。
だけど……。
「礼鴉は、マルとペケのコト、心配してる?」
言葉を詰まらせた俺に、タマが首を傾げてくる。
彼らの存在を知っているコトに瞬間的に驚かされたが、タマは比留間の情報屋だ。
知らないはずがないと、素直に頷いた。
「あのコたちは、親がいなくて戸籍のないコ。強い手駒が欲しかった黒藤が、大枚をはたいて、売買している組織から買い取って、使えるように教育したみたい……」
言葉を切ったタマの真摯な瞳が、俺に向く。
「礼鴉は、マルが欲しいんだよね?」
「……ぇっと」
直球過ぎるタマの質問に、俺の瞳が游ぐ。
「あのコの強さは、ずば抜けてるもんね」
うんうんと首を振るうタマに、心の端っこに違和を感じた。
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