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第140話 ここは比留間のもの

 河堀を伸してから数日。  いつもと変わらぬ雰囲気で、白藤と名乗る黒藤からの呼び出しが入った。  地下格闘場へと向かう車の中には、運転席に座る園田と後部座席の俺、助手席には柴田も乗っている。  黒藤に逃げられたという事案は、園田も自分の失態だと受け取っていた。  俺と園田で処理しにいこうと話がまとまりかけた所で、タマが口を挟んだ。  汚名を灌ぐコトに躍起になっている2人を向かわせるのは、熱くなりすぎるのではないか、と。  俺たち2人だけでは、冷静さに欠けるだろうとお目付け役として柴田も同行するコトとなった。  何度となく通った地下格闘場に、俺は迷うコトなく、支配人のための部屋へと向かう。  扉を開け、1歩中へと入った俺に、ソファーで寛いでいた黒藤が、すくりと立ち上がった。  俺の後に続き、部屋へと入ってきた園田と柴田の姿にも、黒藤は一切動じない。  河堀との連絡が取れなくなった以上、自身の素性がバレたと察したのだろう。 「お待ちしてましたよ」  にこりと笑んだその顔に、いつもなら透けて見える腹黒さはなく、どちらかといえば安堵の色が浮かんでいる気がした。 「お前が黒藤だったとは、な」  忌々しいという気持ちを隠すつもりのない俺は、投げ捨てるように言葉を吐く。 「俺を揶揄って、楽しかったか?」  苛立ち紛れのがさつく音を放つ俺に、黒藤は、同情でもするかのように情けない顔の愛想笑いを浮かべた。 「楽し…くは、なかったかな。バレたら終わりだから、どちらかというとスリル満載だったよ」  スリルを味わっていたという点では、楽しんでいたのかもと、黒藤は楽しげに笑う。 「……っざけんなよ」  腹の底から押し出されたような、苛立ち紛れの園田の低い声が部屋に響いた。  怒り任せにガンホルダーへと手を伸ばす園田を柴田が片手で制する。  にたりと笑った柴田は、楽しげに口を開く。 「ここは俺らのもんだよな?」  比留間の後ろ楯があると思わせ箔をつけるという策略をそのまま利用しようと放たれた柴田の言葉に、黒藤は小さく笑む。 「そうだね。もう看板掲げちゃったし……」  広いガラスの間口から観客席へと視線を飛ばした黒藤は、天下の終わりを痛感する。 「ご苦労さん。あとは比留間(うち)が仕切るから、お前はもうお役御免だ」  感慨深げに観客を見下ろす黒藤の肩に腕を回した柴田は、犯人を連行する刑事のように、出入口へと誘う。  一緒に部屋を出ようとする園田に、柴田は部屋の中央に鎮座するソファーを見やる。 「お前はそこに座ってろ」  なにを仕出かすかわからない園田を、観衆の視線が届くこの場に残す選択をした柴田に、不満げな瞳が刺さった。 「オレも行きます。そいつの息の根はオレが止めるっ」  噛みつく園田に、柴田の冷えた瞳が一瞥をくれる。 「そんな頭に血がのぼってるヤツ、連れてけねぇよ。お前は少しここで大人しくしとけ」  視線でソファーをしゃくった柴田は、ひらひらと手を振るい、園田を置いて部屋を出た。

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