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第149話 返す言葉が見つからない
暴力は振るわないという話に頷いたつもりだったが、警備の仕事に就くコトも同時に承諾した形となった僕に、礼鴉は言葉を繋ぐ。
「基本は俺のボディガードで……」
さらりと言葉を放つ礼鴉に、思わず眉根を寄せる。
「……嫌?」
不服げな色を浮かべてしまった僕に、礼鴉の沈んだ声が届く。
「そうじゃ、なくて……」
与えられる仕事に、不満なんてあるはずもない。
礼鴉の傍が僕たちの居場所で、それが存在の証明で。
それならば、ずっと一緒に居られるのは願ったり叶ったりだ。
でも。
「礼鴉は、充分に強い…でしょ? 礼鴉の周りに居る人たちも強そうな人ばっかりだし……」
あえて僕をボディガードとして傍に置く必要があるとは思えなかった。
顔色を窺うような視線を向ける僕に、礼鴉は、深く瞬く。
「〝ボディガード〞は、名目……」
ははっと小さく自嘲気味に嗤った礼鴉は、言葉を繋ぐ。
「理由がなければ、傍に置きにくいだろ」
僕の頬に向かい、礼鴉の手が伸ばされる。
指先の軌道を追う僕の肩が、ぴくりと跳ねた。
頬へと向かっていた手が、その上をふわりと通り過ぎ、パサつく僕の毛先に着地した。
「俺が、傍に居てほしいって思うのは、……こうして触れようとするのは、迷惑か?」
答えに、……困る。
傍に居てほしいなんて、願われたコトはない。
触れたいなんて、思われたコトもない。
だから、それが迷惑かなんて、わからない。
見詰めてくる礼鴉の瞳には、じりじりとした熱があって、僕の心は端から焦げていっている気がした。
責めているわけじゃないとわかっているのに、居たたまれない感覚に苛まれた僕は視線を外す。
視線を背け、返事もしない僕に、困ったなというように眉を八の字に歪めた礼鴉は、目蓋の裏に瞳を隠した。
僕の心を焦がしていた視線が遮断され、物足りなさが生まれた。
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