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第152話 本能で察する

 嫌悪に歪む顔で歯を食い縛る僕の上から、礼鴉の声が落ちてくる。 「ペケは、ボディガードにはなれないよ。…マルをやる気にさせるために贄だったんだ」  首を傾げる男に促された礼鴉は、言葉を足す。 「血の繋がりもなくて、見た目も似ていないんだけど、一緒に育った2人は兄弟なんだ。弟のペケを守るために、マルは戦ってた……」  腹立たしさを露に紡がれた礼鴉の言葉に、男はペケに強さを求めているわけではないと声を返してくる。 「ボディガードがほしい訳じゃないよ。なんか可愛いなと思って。ねぇ、オレと一緒に居る気、ない?」  首を傾げ、愛想を振るってくる男に、僕と繋がっていたペケの手が、するりと解け逃げていった。  存在がなくなった手に視線を向ける僕の瞳に、男を見詰めるペケの姿が映る。 「………ぎゅうしてくれる?」  顔色を窺いつつ、お願い事を紡ぐ子供のような仕草で問うペケに、男は少し驚きを露にしつつも、その質問に答えを示す。 「ぎゅう? …ぁあ、抱き締めて欲しいってコト? ははっ。ぎゅうでも、ちゅうでも、なんでもするよ」  両手を広げる男に、ペケはなんの警戒も示さずに、その胸許へと身体を預けた。  まるで、自分を可愛がってくれると本能で察する小動物のようだった。 「はい、ぎゅうぅぅ」  安堵したかのように緊張の糸を切ったペケは、腹の奥から溢れる笑みが押さえ切れないというように、へへっと小さく笑みを零す。 「…これは、許可が下りたのかな?」  ペケをきゅっと抱き締めながら半信半疑の声を零す男に、礼鴉は驚き混じりの言葉を紡ぐ。 「ペケのそんな嬉しそうな声、初めて聞いた。俺には、そんなの強情ったコトなかったし」  きょとんとした空気を纏い紡がれた礼鴉の言葉に、男は照れ臭そうに小さく笑う。 「寝る時はマルと一緒。マルがボディガードの仕事をしている間は、オレと一緒にいようか?」  声に瞳を上げたペケは、〝見つけた〞というように男の胸に再び顔を埋めた。  JOURに住める代わりに、名ばかりの警備員となって、2ヶ月程が経っていた。  名ばかりと称したのは、紳士のための秘密倶楽部であるが故に、場を弁えた人間しか利用できないここでは、僕が出張らなければいけないほどの暴力が絡むようないざこざは起こりようもないからだ。  そして、もうひとつ。  礼鴉のボディガードという、こちらも名ばかりの役割だ。  僕の立ち位置は、警備員というよりはキャストの監視役で、その対象である彼らが仕事を始めてしまえば、身体は空く。  その空白をなくすためなのか、僕の主軸は礼鴉のボディガードで、JOURの仕事は二の次扱いだった。  ペケが抱きついた人物は、浅岡(あさおか) 明琉(めいる)という名で、礼鴉より前からここで働いているらしかった。  今日は、その明琉がJOURの仕事を休み、どこかへ出掛けると話していた。  僕はいつも通り、名ばかりの2つの仕事があり、ずっとペケの傍に居るわけにもいかない。  仕事を休みたいと言えば、きっと何も言わずに承認されただろうし、先に〝ペケと一緒にいたいなら、ボディガードは休んでもいいよ〞と許しが出ていた。  だが、仕事を放棄するつもりがない僕に明琉は、心配しなくても留守番をさせる気はないとペケを連れて出掛けた。

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