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第158話 悦びの乏しい空間
掴まれた感触に背を向けていたマルがきょとんとした瞳で振り返る。
「約束しただろ?」
言葉の意図が掴めていないだろうマルは、不思議そうに俺を見やる。
「仕事が終わったから、ご褒美の時間」
柔らかくマルの手を引き、ベッドへと誘導した。
後ろから抱き締め、ベッドへと腰を下ろした。
マルは俺の足の間に収まる形で、浅くベッドに腰掛ける。
右へ左へとマルの視線が、なにかを探すように室内を見回していた。
「なにか探し物か?」
上から覗き込む俺に、胸元に頭を預けて仰ぎ見るマルが口を開く。
「縛ってもらわないと」
まるで観念してお縄にかかる犯人のように、拳を合わせた形で掲げてくるマル。
「君が嫌がるコトはしないから。大丈夫」
揃え掲げられた拳に手を被せ、そっと膝の上に下ろしてやった。
薄い腰のラインをなぞり、真っ平らな胸を揉む。
腰から足へと滑らせた手で、膝から内腿へと擽るように指を這わせた。
膝に下ろしたマルの両手は、お互いがお互いを制そうとするかのように指が絡み合う。
「気持ち良くない?」
耳許で囁き問うた俺の声に、マルはもぞもぞと擽ったそうに身体を燻らせる。
「……わかん、ない」
刺激に硬くなった乳首を柔く摘まみ、こりこりと転がしてみたところで、気持ち良さそうには見えなかった。
痛みが自分にとっての最高の褒美だと、気持ちいいだけではイケないのだと、悔しげに俺に伝えてきたマルの姿が頭を過る。
柔らかな刺激は、余計にマルを苦しめている気がした。
手を止めた俺に、マルがゆるりと振り返った。
不安げに俺を見詰め、顔色を窺ってくるマル。
困り顔で俺を見詰めるその瞳には、怯えが見え隠れしていた。
褒美というより罰を与えているかのような現状に、胸の奥がもぞりと不快を訴える。
それに、マルが優しい快感を知ってしまえば、俺が求める顔は2度と見るコトが叶わなくなる。
苦痛を感じるコトはないが悦びも乏しいその空間が堪え難く、摘まんでいた乳首を強めに捻る。
背をそわりと震えさせたマルは、囲うように回していた俺の腕を剥がし、逃げを打つ。
「ごめん……なさ……」
離れ振り返ったマルの瞳は、焦りと困惑で大きく揺らぐ。
「謝らなくていい」
嫌がるコトはしないと言ったのに、焦れったい空間に堪えきれず、痛みを与えたのは俺で。
悦びだけを与えようとした〝ご褒美〞は、失敗に終わった。
「逃げたくなるようなコトをするつもりはなかったんだ……」
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