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第159話 煽られるはずはないと思っていた
何を紡いでも言い訳にしかならないとわかっていながら放つ言葉は、気まずい空気を払うほどの力はない。
抱える必要のない罪悪感が、マルの心にこびりつくのを感じていた。
「僕を虐めるコト、嫌じゃないんだよね?」
問いかけの意図がわからず顔を顰める俺に、マルは言葉を探しながら足していく。
「僕は虐められるコトが、嫌じゃない。だから、縛られるコトも、何かを強いられるコトも、嫌じゃない……。でも」
ぷつりと声を止めたマルは、游がせていた瞳を俺に据え、哀しげに顔を歪ませた。
「礼鴉が傷つくのは、嫌……」
腕の中から逃げたコトで俺が傷ついたとでも思ったのか、悄気た空気を纏うマル。
「俺は傷ついたりしてないよ」
さらりと紡いだ声に、マルは緩く首を横に振るった。
「無意識に反撃しちゃいそうで……」
自分の両手に視線を落としたマルの仕草に、心配している〝傷〞は、心ではなく身体に対してのものなのだと、気がついた。
両手を見詰め動きを止めていたマルは、踏ん切りをつけたように視線を上げた。
まるで部屋を彩るように並べられている拘束具の中から、馴染みのある赤い麻縄を手にしたマルは、それを俺に差し出してくる。
「いつもみたいに縛って下さい。僕は痛みがほしくて、礼鴉はそれを与えるコトが出来る。そこに、嫌悪がないなら……」
お願い、と訴えてくるマルに、俺は麻縄を手にする。
手首を合わせ差し出された両手に、麻縄をかけ、きゅっと縛り上げた。
そのままでは振り回せてしまうため、残った縄を二の腕から背中へと這わせ、自由を奪う。
拘束具合を確かめるように、身体から腕を離そうと試みたマル。
ほんの数ミリ動かすのがやっとだとわかったマルは、動きを制されたコトに安堵の色を浮かべた。
まるで祈りを捧げるかのように身体の前で手を組んだマルは、すっと俺の前で膝をつき、媚びた視線を向けてくる。
鼻先でスラックス越しに裏筋を撫で上げたマルの口から熱を纏う吐息が零れた。
痛がっても嫌がってもいない。
反抗的に俺を睨む視線もなければ、怯えに竦んでいる訳でもない。
そこにあるのは、ご褒美を待ち遠しく願う期待だけで。
抗いながらも堕ちていく様に興奮する性癖が煽られるはずなどないと思っていたのに、俺の股間は熱を持っていた。
繰り返された行為に身体が勝手に反応しているだけだと思ったが、心臓の高鳴りがそれを否定する。
擽ってくる鼻先も、布越しに感じる息の熱さも、俺の求めるものとは違うはずなのに、その唇に喰らいつきたくなっていた。
くっと引いた腰に、マルはおあずけを食らった犬のように俺の股間を見詰める。
顎に指をかけ、顔を上げさせた。
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