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第14話 融けていく心*

 アロイスの手が、シリルの衣服を荒々しく脱がせていく。あっという間に裸に剥かれてしまった。    アロイスは、寝台脇のサイドテーブルに置かれていた香油の瓶を手に取る。瓶の中身が彼の手の平の上に開けられると、薔薇の香りが濃く鼻を擽った。    彼の手の平に馴染み人肌の温かさになった香油が、後ろに塗りたくられる。すると薔薇の香りはますます強くなって、シリルを息苦しくさせた。    穴を撫でていただけの指が、つぷりと入口を突いて中に挿入った。彼の体温が、中に直接触れるこの瞬間が苦手だ。他人の体温が勝手に中で蠢いているなんて、気持ち悪い。なのになぜだろう、今日は心地よさを感じてしまった。   「ん……っ」    走った快感に、甘い吐息が漏れ出てしまった。    アロイスは指の腹で、丁寧に中を押し拡げていく。  以前彼が「愛らしい」と形容したような妙な声が漏れ出てしまいそうで、口を手で押さえる。    いつにない丁寧さで、彼はシリルの中を解していった。それはまるで繋がるための場所を作るための作業というよりも、愛でるための愛撫のようだった。    中を擦られる度、擽ったいような熱いような感覚を感じる。いつしか、シリルの中心が兆してしまっていた。以前、そこを手で扱かれて達してしまったことを思い出して、顔が熱くなる。    湿った音が、長い間響いた。    ほう、とアロイスが息を吐いたかと思うと、細長い指がずるりと引き抜かれた。引き抜かれる感触に、後ろがひくりと反応した。  彼も自分の衣服を寛げていく。彼自身が露出し、それを後ろにあてがわれた。   「挿入れるぞ」 「ああ」    ぎゅっと目を瞑って、覚悟を決める。これだけしっかりと解されていればそれほど痛くないと知っているとはいえ、挿入の瞬間は苦手だ。    きっと、初めての時は痛かったからだろう。あの時の彼は、衝動とやらに突き動かされていたのだろうか。ならば箍が外れた時というのは、あの時のような痛い抱き方をされるのだろうか。それは怖い。    けれども、アロイスと共にいることを決めたことに後悔はない。鎖を勝手に断ち切って、いいことをした気になっている彼の態度がムカついたからだ。あのまま言われた通りに下層に帰るなんて、男らしくない。なにより……彼は楽士がいなくなっても元に戻るだけだとは言っていたが、実際には困るはずだ。彼の強がりに決まっている。だから側に留まることにする。   「……っ」    剛直が入口を押し割り、シリルは歯を食い縛った。  恐怖とは裏腹に、よく解された穴は易々と彼自身を受け入れた。剛直はすんなりと奥へと進んでいく。   「シリル……苦しいのか?」    ぎゅっと目を瞑った表情を見てか、アロイスが声をかけてくる。声音に心配そうな色が含まれているように聞こえて、戸惑ってしまう。優しくされたら、変になってしまいそうだ。   「こちらに集中しろ」    彼はシリルの中心に手を伸ばすと、それを手で包み込んだ。   「ひゃっ」    温かい手の平に包まれただけで、自身が脈打った。  香油に濡れた指が、滑らかにシリルのモノを扱き始める。   「あ、ああっ!」    今度は手で押さえていても、声が漏れ出てしまった。同時に中の剛直が体積を増したように感じられた。    アロイスは腰をゆっくりと進めていく。  抜いては突いての動きをゆっくりと繰り返し、やがてそれは湿った音を響かせるほどの律動になっていく。   「あっ、あっ、ああっ!」    アロイスが律動に合わせて手を動かすので、まるで律動に感じているかのようになってしまう。いや、それとも本当に感じているのだろうか。   「シリル……っ」    律動は激しさを増していく。蒼い瞳が、ひたむきに自分を見つめている。これが、楽士に対して感じている衝動とやらなのだろうか。今の彼は箍が外れた状態なのか、これでも抑えているのか……。    一際深く奥を穿たれた瞬間、親指の腹で先端を強く圧された。   「あぁっ、アロイス……っ!」    強い刺激に、思わず口から彼の名がまろび出た。    先端を刺激されたシリルのそこは、あっけなく達して彼の手を白く汚した。それと同時に、内側がどろりと湿ったもので満たされていくのを感じた。彼も達したのだ。    今回のまぐわいはこれでおしまいだ。彼が達するといつもほっとするのに、今日はなんだか名残惜しく感じられた。    モノが引き抜かれると、どろりとそこから液体が溢れ出す感触がした。    シリルをじっと見下ろしていたアロイスが、愛おしげに頬を撫でた。   「シリル……お前が残ると言ってくれて、嬉しかった」 「え……?」    アロイスが嬉しいと口にしたことも意外だったが、なにより彼が口にした「お前」の響きがいつもよりずっと柔らかくて驚いた。彼がとても近しく感じられた。    その後侍従長が身体を拭くためのお湯と布を持ってくると、以前のようにアロイスが身体を拭いてくれた。丁寧に全身の汗を拭くと、細長い指でシリルの中から精を掻き出す。   「あっ、あ、あぁ……っ!」    尻の穴を弄られているだけなのに妙な感覚が走って、中心が反応してしまうのが恥ずかしい。誤魔化すために身を捩ったりなどしてみたが、無駄な抵抗だった。    中から掻き出される間、アロイスに後ろから抱き締められているかのような体勢になっているのが嫌いではなかった。否、嫌いどころか――頬の熱さに、シリルは自分の気持ちが変容しつつあることを感じ取った。

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