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第7話
翌日、澤木とエミがやって来ると、四人で流路のステーションワゴンに乗って隣町を目指した。
廃校になった小学校を改装したとかいうその施設は、月曜ということもあってかかなり空いていた。
大正時代か昭和初期に建てられたと思われる木造の校舎は廊下も窓枠も木製で、レトロで洒落た雰囲気を醸し出していた。教室として使っていた部屋をリノベーションして、いくつもの雑貨店や飲食店が軒を連ねている。
目当てのビストロは教室三つ分くらいの広さで、話題の店のためかさすがに混んでいたが、澤木が抜け目なく予約を入れていたので、何組かの人々が入店待ちをしているところを、すんなりと席に着くことができた。
「へえ、こんなビストロでランチ千八百円からか。頑張ってるなあ。原価高そうなのに」
しげしげとメニューを見ながら流路が唸る。
「ちょっと如月くん、現実的なこと言わないでよ〜」
「ああ、ごめんごめん。つい気になっちゃって」
確かに立地が田舎とはいえ千八百円でスープ、前菜、メインに魚か肉料理、珈琲、デザートが付いてくるとはなかなかに破格だと言えた。シェフは都内の有名ホテルで十年ほど働いたあと、地元に戻ってこの店を開いたのだという。
それぞれ料理を選んで注文し、このあとの運転のために飲めない流路と澤木はノンアルコールのカクテルで、天音とエミはスパークリングワインを選んで乾杯した。
「あー、最高。こんな平日の真っ昼間に乾杯できるなんて！」
澤木がテンション高く声をあげて満面の笑みになった。
「オレたちはノンアルだけどねえ」
「まあノンアルだって、こんなの気分よ、気分。あ、天音くんたちはどんどん飲んでくれてもいいからね」
「いえ、俺もこの一杯でやめときますよ」
天音がそう言うと「えー、私はもう少し飲みたいな。もう一杯くらい付き合ってくださいよ、佐々乃さん」と、エミが隣からこちらを見て笑顔になった。「うーん、分かりました。じゃあ、あとでもう一杯」と言うと「やった！」とエミは屈託なく笑う。
「私、たまたま休みがヘンな時期に取れたから帰省したんだけど、花火も見られたし、佐々乃さんや如月さんと知り合えて良かったな。帰って来て良かったあ」
こちらの二人の様子を澤木がニヤニヤ笑いながら見ているのに天音は気付いたが、知らんぷりしようとしていたのにエミの方が口に出した。
「ちょっと彩花。何よ、その顔は」
「えー、だって楽しそぉだなぁと思って。ね、如月くん」
「ん、ああ、そうだね」
「彩花っていつもこうやって人のこと誰かとくっつけようとするの。おせっかいおばさんみたいでイヤだよね」
エミは困ったような表情を作って言ったが、その言葉にはまんざらでもなさそうなトーンが混じっていて（これはマズいな）と思う。
「ねー、佐々乃くんて今は彼女、いないんでしょ？」
「え、ええ、まあ……」
澤木に聞かれて咄嗟に嘘も吐けず、ごにょごにょと天音は言葉を濁した。
「どれくらいいないんですか？」
グラスを持つエミに何気ない感じで尋ねられ、「半年以上ですかね……まあ、忙しくて構ってあげられなかったのがいけなかったみた
いで……フラれました」と正直に答えた。
「へえ。仕事が忙しいなんてそんなの仕方ないよねえ」澤木が言う。
「うーん、まあ、会うのを何回もドタキャンしたりして、その後もちゃんとフォローしなかったのがいけなかったんでしょうね。俺ってそういう
だらしないところがあって、ダメなヤツなんですよ」
ヘタに好意を持たれてもいけないので卑下するように言ってみたが、
「けど、ちゃんとそれを自覚してるなら佐々乃くんはいい人だよ。仕事を優先しなきゃいけないときだってあるじゃない？」
と逆に好意的に取られてしまう。
こちらを見て微笑むエミを見て（前だったらこんな綺麗な人に好かれたら、嬉しかったはずなのに）と、どうしても恋愛対象としての興味をエミに持てそうにないことを自覚して不思議な気持ちになった。
俺ってそんなに流路のことが好きなのだろうか。こんな素敵な女性と付き合いたいとも思わなくなってしまうくらいに？
天音はチラっと流路の方を見たが、流路は流路で澤木と何やら喋っては笑い合っている。（くそ、人の気も知らないで。だいたいこうなったのも、お前のせいなんだからな……！）と、不貞腐れたような気分になった。
食事を終えてから、四人で建物の中の店舗を順番に覗いていった。しかし廊下の途中まで来ると最初から企んでいたのか、
「エミ〜！私、あっちの家具の店、見たいから先に行くね。エミも適当に佐々乃くんとゆっくり回ってて〜。ね、如月くん、ちょっと付き合ってくれない？」
と、澤木は流路の袖を引っ張って行ってしまった。
残された天音は成り行き上、エミと陶器を扱う店や洋服や雑貨のセレクトショップを見て回ることになった。
「佐々乃さんはいつまでここにいるんですか？如月さんのお店は一時的に手伝ってるだけだって聞きましたけど」エミに尋ねられ、
「うーん、とりあえずあと二ヶ月くらい……？夏の間はこっちの方が涼しいし、のんびりさせてもらおうかと思って。就活は秋頃からかなあ……」などと答えてみたものの、本当に自分がまた東京に戻ってサラリーマンとしてやっていけるのか、もはや自信は無かった。
汐留にある化粧品会社に勤めているというエミは徹底的に感じのいい、どこからどう見ても完璧な女の子だった。おととしに彼氏と別れて以来フリーだと言うが、それが奇跡に思えるくらいだ。まして、そんな女性が少なからず自分に興味を持っているらしきことがますます驚きだった。
それなのに、どうしてもエミに対して付き合いたいとかいう気持ちが湧いて来ない。それどころか、今は流路のことが気になって仕方がなかった。
流路は元々男性が好きなのだから澤木との仲を勘繰っているわけではない。エミに対して感じよく接しようとしている自分を流路はどう思っているだろう、そんなことの方が気になる。
その後も一時間ほどエミとブラついていると、ようやく廊下の向こうから来た流路と澤木と合流した。
「あ、いたいた！エミ〜、何か買えた？」
「うん、お皿、可愛くて四枚も買っちゃった。これくらいなら電車で持って帰れるかなと思って」
その皿はと言えば、天音が片手にその紙袋を持っていた。そういうのが女の子の隣を歩くときのマナーだからだ。
「へえ、いいじゃん。わたしは如月くんに家具選ぶの手伝ってもらったんだ。彼、センスいいからね」
澤木が嬉しそうにしているのを流路は微笑んで見ている。
流路め、営業スマイル浮かべやがって。と天音は密かに思う。なんだか面白くない気持ちがモヤモヤと膨らんで（やっぱり俺、流路のこと好きなんだろうな）と改めて実感してしまった。
澤木の背後にいる流路を複雑な気分で見ていると、ニコ、と女子たちには分からないようにこちらを見て微笑む。天音は考えていたことを見透かされた気がしてフイ、とそっぽを向いた。
夕方の電車で帰るというエミを新宿までの特急が出る駅まで送り届け、家の手伝いがあるからと残念そうに言いながら車に乗って帰る澤木を見送ってから、二人はリビングのソファに座り込んだ。
「は〜〜」
謎の疲れが天音を襲った。贅沢な話なのだろうが、女性からの好意を感じよくかわすというのもなかなか骨が折れる。
一緒に店を回っていた間にエミから聞かれてメッセージアプリのⅠⅮを交換したら、さっそく【今、電車の中。とっても楽しかった！また都内に帰って来たら連絡してください。どこかへご飯食べに行きましょう】というメッセージが届いていた。
【そうですね、ぜひ。こちらこそありがとうございました】と愛想のいい返信を送ったが、都内にいつ帰ることになるのかは分からないし、帰ったとしても連絡のしようがない。期待を持たせてはいけないのだけど、だからといって無下に断ることもできなかった。
「ほい」と、流路が冷えた缶ビールを持って来てくれて「ありがと……」とプルトップを開けてごくごくと飲み下す。「はー、うまい！」と大きく声が出る。
「疲れた？」と尋ねられ、「うん……なんかね」と答える。
「エミさん、かなり天音のこと気に入ってそうだったもんなあ」
流路の他人事のような言葉についモヤっとする。
「……そうかな？それなら澤木さんだって流路のこ――」
そう言いかけると被せるように、
「天音……エミさんのことどう思った？」
と、流路が目を伏せて尋ねてくる。
「どうって……？」
「綺麗なひとだったよな。付き合いたいとは、思わなかった？」
「は……？」
「天音は……今まで女の人と付き合ってただろ。あんな人が相手だったら普通は――」
「……バカ！」
「え？」
天音はグッと流路の二の腕を掴んだ。
「お前となあっ、あんなことしといてっ……！すぐ他の女の人を好きになったりするほどこっちは器用じゃないんだよっ……！」
天音の顔を見て流路はぱちぱちと瞬きを繰り返した。「天音……？」
「俺、お前のこと好きかもって言ったろ……。なあ、俺たちって付き合ってるわけじゃないの？あれは、遊びか？」
何を俺は必死になってるんだろう、と頭の片隅で思ったが、苛立つ気持ちを抑えきれなかった。
「遊びなわけないだろ。オレは天音のことずっと好きだったって言っただろ？」
「じゃ、何でエミさんのことどう思ったかとか聞くんだよ！どうとも思わねーよ！俺はっ……。お前が――！」
最後まで言わないうちに流路の唇が覆い被さるようにして天音の口を塞いだ。
（ちょ、またこいつ、俺が最後まで言わないうちに……）
こいつはズルい、そう思うのだけど、熱い舌に口腔内をみっしりと占領されて何の言葉も出せない。
しばらく荒々しく蠢く舌に舐め尽くされたあと、
「天音……。そんなことばっかり言われたら我慢できなくなる……」
そう言ってずしりと体重を掛けられ、ソファに後ろ向きに倒された。
（やば……！）と思ったときには天音のシャツの中に大きな手が潜り込んでいた。腹を撫であげた手がその上まで届き、長い五本の指が天音の筋肉があまりついていない片胸をギュっと掴むようにしてくる。
「わ、わ、流路……」
胸を寄せるようにされたかと思うと、先端を親指でくにくにと触られ、「あっ……！ちょ、それ……！」と、びくびくと身体が揺れる。
「あんまり、胸、触られたことない？」
「な……！そりゃ、そんなに、ねえよっ……」
「だから敏感なんだ？」
カッと顔に血が昇るのを感じたが、尚も流路は突起を弄っては摘むしぐさをする。
「やぁ、やめろって……」
「やだ。そんなに可愛い反応されたらムリ」
天音の上に跨った流路が半袖シャツのボタンをひとつずつ外し始める。わ、わ、と思っているうちに胸がはだけさせられた。
「……天音の肌、すごく綺麗だ」
『バカ、そんなわけあるか』そう言いたいのにグッ、と喉が詰まって言葉が出て来ない。
ゴツゴツした大きな手のひらが天音の腹を、胸を這い、触られたところからどんどん熱を帯びてじんじんしてくる。
片手でキュっとまた片方の乳首を摘まれ、「んぁっ……！」と声をあげると、覆い被さってきた流路の舌がもう片方を舐め上げた。
「ンンッ……うぁ……」
声を出したくないのに勝手に口から喘ぎが漏れ出す。
突起を口の中に含んで舌で弄ばれて、虫が這うようなむずむずした刺激が背骨をつたい、下腹の方に熱が籠り始める。天音の硬くなりつつある部分は流路の胸の辺りに当たっていて、絶対にもうそれを気付かれている。
ダメだと思うのに胸以外にも触れて欲しくて、焦れったさにうずうずと身体を動かした。
すると、それに応えるかのように流路が体勢を下にずらす。あ、あ、と思っているうちに天音のハーフパンツのベルトは外され、ボタンが外され、ジッパーを下ろされる。抑えるものを失ったそこがボクサーパンツを持ち上げて隆起していて、天音は恥ずかしさのあまり顔を自分の腕で覆った。
（俺、流路に胸を舐められて、感じて、勃ってる……。めちゃくちゃ恥ずかしい……）
するとグッと下着を一気に下ろされて、硬くなったものが空気に触れた。 あ、と思った一瞬ののち、生温かいところに自分のものが包み込まれる感触があって、天音はビクリと腰を浮かせた。
「あ、っ……ああっ……！」
恐る恐る目を開けて下の方を見ると、流路が自分のものを口の中にすっぽりと収めていて天音は発狂しそうになる。「や、やめっ……！汚いだろっ……！」流路の頭を手のひらで押し返しながらそう言うのだけど、流路は口の中で天音のものを転がすのをやめない。
「んんっ……」快感が下半身を包み込み、背骨が大きくしなった。流路の手にがっちりと尻を掴まれ、ますます喉の奥深くにそこを咥え込まれる。
「うっ、んん、やぁっ……」
女の子みたいな高い声が出て自分で驚いて手で口を塞いだ。恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
すると一瞬、流路は口を離した。
「天音……声、我慢しないで。誰も聞いてないから。オレ以外には誰も……」
天音はぶんぶんと首を振る。お前が聞いてるから恥ずかしいんだろうが、と思うけどそれも声にはならない。
じゅう、と先端から溢れる体液を吸われては裏筋を舐め上げられて、「あ、んんっ、ん…」とリビングに喘ぎが響く。下にチラリと視線を向ければ、こちらを上目遣いで見る流路と目が合う。熱を湛えつつも、どこかこちらを冷静に観察するようなその眼にゾクゾクとしてしまって、ますます血がそこに集まっていく。
「あっ、ああっ、もう、ダメだって、流路……！いく、いくからっ、はなせ……！」
グッと更に強く流路の頭を押すのだがビクともせず、ますます尻に爪が食い込むほど強く掴まれ、太腿を押さえられた。
「ああっ……も……！」
頭の中で弾けるような感覚があり、どくん、と一気に溜まっていたものが吐き出される感覚があった――温かい口の中に。
「ちょっ……！ばっ……！流路、出せって……！」
少し身を起こしてぐいぐいと頭を押すのだが、がっちり下半身を抱え込んだ流路は動こうとしない。天音は流路の喉がごくり、と
動くのを見てパニックになった。
「ああっ……！何すんだよぉっ…！出せってばぁ……！」
飲み込んだあげくになかなかそこを離そうとしない流路を天音は絶望的な気分で眺め、諦めてばたりと後ろに倒れた。
しばらく天音のものを舐め続けていた流路はようやくそこを解放すると、耳元で「気持ちよかった？」と低く囁いた。目を閉じてい
た天音はその声にまたビクっとする。
「くそっ……。お前ってドＳってやつ……？いや違うか、ドＭ……？」
「どっちでもないよ。天音が好きなだけ」
そう言うと流路は天音の頭を両腕で抱きしめて、ちゅ、ちゅ、と髪の中に、額にキスを落とした。やがてまたそのキスが唇に落ち、ちゅ、ちゅ、と触れたかと思うとまた深く舌を入れられる。
やばい。だから、やばいって、こいつ。
「はぁ……ちょっと、待てって……。お前って……もしかしてすごーく、重い？」
「今さら気付いた？じゃなければずっと天音のことを好きでいたりしないよ」
「……それも、そうか」
こいつを甘く見ていたかもしれない、と天音は思った。感じが良くて、甘えさせてくれて、大人っぽくて……けど、その実は、すごく執着が強くて重たい愛情を持っている。
「ねえ、天音。天音は……これ以上のこと、オレと出来る？」
天音の頬に唇をつけながら流路が尋ねてくる。
「……これ以上のことって……？」
「オレと……セックスできる？」
「なっ……！せっ……！」
いきなり出て来た直截的な言葉に天音はわなわなと口元を震わせた。
「天音が、イヤなら挿れたりしない。当然だと思うんだ……天音は女の子と付き合って来たんだから。けど、挿れなくてもセックスはできるから……。天音がその方がいいなら、挿れなくてもいいから、付き合って欲しい」
「ちょ、待て待て。そんなんでいいのか？我慢できるのかよ？」
「……できる、と思う。それでフラれるよりはマシ」
「だからって……」
「なあ、考えてみて、天音。天音のここに……」
それ言うと、つい、と天音は自分の後ろの窄まりに流路の指先が触れるのを感じて「うわぁっ！」と声を上げた。
「ここに、オレのもの、挿れられる…？」
「い、いれ……挿れ……」
もごもご言っていると、キュッ、とそこを押される感触が走り、「あ……っ！」と声が出る。
「お前っ、やめろよぉ……」
あまりのことに目尻に涙が浮かんだ。弄ばれているような気分になって屈辱とともに、けれどどこか興奮が湧き上がって来ているのに気づいてしまう。
「天音……可愛い」
ちゅ、ちゅ、とまたキスがあちこちに降ってくる。
「……わ、分かった。分かった、けど……。急には、入らない、よな……？どうすれば、いいの……？」
ドギマギしながら尋ねると、流路の顔がパッと明るくなった。
「してもいいの……？」
「ま、待てよ、早まるな。入るか分かんないけど、まずどうすればいいのかって聞いて……」
「練習、しようか」
「れんしゅう……」
「天音……一緒にお風呂入ろ？洗ってあげる」
「え、いや、ちょ、待てって……！」
慌てているうちに流路は天音の穿いていた下着とハーフパンツをすっかり脱がした。シャツを羽織っただけの天音の背中と膝の裏にグッと流路の腕が差し入れられ、フワリと身体が浮く。
「うわっ……！」
「天音、軽いんだよな……。もう少し、メシ食った方がいいよ。オレが、もうちょっと太らせてあげる」
「な、いい、いいって、歩けるからっ……！」
「オレがこうしたいからいーの」
流路は器用に天音を抱えたままリビングの扉を開け、階段を降りて浴室の中に入ると、ようやく天音を下ろした。
「流路……」
「いいから。黙ってて」
そう言われてまた唇が塞がれ、羽織っていたシャツも脱がされた。
流路は素早い動作で自分の服を脱ぎ、ひとつに括っていた髪の毛をぱらりと解くと、天音の手首を掴んでシャワー室へと引っ張った。
シャワーのレバーが捻られて頭上に温かな水が降り注ぐ中、どん、と手首を掴んで壁に押し付けられ、また深く口付けられる。一体、さっきから何回キスされただろう。舌も唇もしつこい愛撫を受けてヒリヒリしてきている。
けれどもやはり天音はまた感じてしまって、「うん……う……っ、ふ……」と声を漏らしながら身を震わせた。足腰から力が抜けてへたり込みたくなるのを、流路の太腿が股の間に入り込んできて支えられ、がっちりと壁に貼り付けられる。
しばらくして解放されると、ふー、ふー、と呼吸しながら壁に背中を預けた。そして流路がベビーオイルのような透明で粘度のある液体をとろりと手に垂らすのを見つめた。
「痛かったら、言って」
「え……」
戸惑っているうちに、流路は天音の片方の脚を太腿の後ろを掴んで持ち上げた。
太い指先にささやかな窄まりの入り口を優しくマッサージするように撫でられて「わっ……」と声が出る。ただ、驚くのと同時にびくびく、と腰が疼いて刺激が走った。
「これ、イヤ……？」
流路の顔が近づき、天音の左耳を優しく喰んだ。後ろにぬるぬるとした感触が続き、身体がビクついて止まらない。
「イヤ……じゃない……」と言うと、つぷ、と指先がほんの少し中に入る感覚があった。「あっ……ちょっ……！」と言っている間にその指が徐々に奥へと潜っていく。
さして痛みがあるわけではなかったが、身体を診察されているような違和感が走る。だが、にゅ、と、さらに奥に進んだ指に「ひっ」と声が上がる。
しばらく流路は天音の中に指を挿れたままじっとしていたが、「ちょっとだけ動かすよ、天音」と低い声で囁いた。
何も言えずにこくこく、と頭を縦に振ると、ふっと流路は笑って天音の目をまっすぐに見つめたまま指を中で、くい、と動かした。
ピリついた痛みがほんのりと走る。しかし、狭い通路を広げるような動作でじわじわと動かされているうちに、ゴツゴツした指の感触にだんだんと慣れて来た。
「あっ……」
どこからかむず痒いような感覚が湧き上がって来て、天音の腰が揺れる。さらに、くい、くい、と内壁を押されて、「あ……？……あっ……」と小さく零れる。
「りゅ、流路……そこ、なに……」
むずむずと身体の中心が疼いて、思わず尋ねた。
「知らない？男の、触られると気持ちよくなるところ」
「……そんなの、知らなっ……」
言いかけると、ギュ、とまたそこを押される。
「ンっ……！」
「大丈夫そうかな……」
流路がそう言うと、孔に入り込む指がもう一本、増えた感じがした。
「あっ……。ンンっ……！」
二本の指がピンポイントで天音のその敏感な部分を責め、むずむずと蠢く感覚がどんどん強くなってきてしまい、自然と腰が揺れる。崩れ落ちそうになって流路の背中に手を回してしがみついた。
「あ、りゅ、流路……。も、ダメだっ、そこっ、あんま触るとっ……！」
「はぁ、天音っ……。気持ちいいの……？」
「ん、んん〜〜、うぁっ、だめだって、ああっ……」追い立てられる感覚に足が小刻みに震える。
「天音……すごいね、あんまり初めてでここで感じられる人っていないって言うのに……」
「バカっ……！ヘンなこと言うなぁっ……！」
「天音、天音……。可愛い……」
バカ、可愛いってなんだ可愛いって、と反論したいのに、指を入れられながら、また唇を塞がれてしまう。ダメだ、いつも何も言わせてもらえない。咽せ返るような流路からの熱に天音はどんどん浮かされていく。
「んんっ、うぅ……」
そこを押されて硬くなった自分の先っぽから、じわりじわりと体液が溢れて滴るのが分かる。どうしよう。そこにも触ってほしい。
けれど、そう言えなくて流路の背中に回した片手を外し、自分の前に持って来ると、
「天音、だめだよ、オレがやってあげる」
と唇がまた塞がれ、流路の大きな手のひらに性器を包み込まれた。
「ああっ、いやだっ、……どっちも、一緒に触るなっ……」
イヤだと言いながらも、天音は床にへなへなと座り込みそうになって、流路にしがみつく腕に力を入れた。
「……イヤ？」
「う、あー……。ああっ……」
天音は半泣きになった。今まで味わったことのない快感でいっぱいになりすぎて感情の処理まで追いつかない。
そこを、ぐ、ぐ、と押されて、前を扱かれては口を塞がれ、迫り上がってきた熱に耐えきれず天音は吐精した。吐き出し終わるまでずっと流路は許してくれず、どの動作もやめてくれなかった。
全部を出しきったころ、やっと指が抜かれ、手が離された。ぎゅ、とその腕が天音を抱きしめる。
「流路なんか、嫌いだ……」
泣きそうな声を天音は漏らした。でも口から出た言葉とは裏腹に、それは甘えているような響きになってしまう。
「嫌い？イヤだな、オレは天音にだけは好きでいてほしい……」
「きらいだ……」
「天音。天音、ごめんね。イヤだった？」
流路に心配そうに顔を覗き込まれ、また頬が染まるのを意識して顔を背けた。
「ううっ……」
「ごめん。ごめんな…」
「バカ、イヤじゃない……」
「天音……」
降り続くシャワーの下、天音はそろそろと流路の背中に両腕を回した。自分とは全然違う厚い胸板に薄い肌が合わさり、少し速い鼓動が直に伝わってくる。頭にそっと流路の手が置かれ、撫でられた。
「どうしよう、天音。好きなんだ。好きでしょうがない。天音がオレのこと嫌いでも」
「……嫌いじゃない。ずっと俺のこと好きだったくせに分かんないのかよ、それくらい……」
天音はさらにギュッと流路に抱きついた。こんなに触れ合ったらきっと爆発しそうに大きく鳴っている心臓の音が伝わってしまうだろう。
しかしピタリと隙間なく抱き合っていたから、天音は下腹あたりにある流路のものがすっかり硬くなっているのが気になって、更にドキドキしてしまう。
「お前のも、触ってやる……」
「え……」
天音はしがみついていた腕を解くと、流路のものを右手で握った。自分のよりもふたまわりは大きさがありそうなそれが、手の中で小動物のようにびくびくと動くのを感じて、どうしてだか愛おしい気持ちが溢れた。
手を上下に動かすと「は……っ。ちょ、あまね……」と、いつもより潤んだ低い声がシャワールームに響く。
「なあ、これ、俺のナカに挿れたいの……？」
「挿れたい……けど、今日はっ……がまん、するから……」
「俺が嫌だって言ったら、ずっと我慢できるのか……？」
「するっ……。天音が、イヤなら、我慢する……。挿れなくても、触らせてくれるだけでいいから……」
「挿れるなとは言ってない……。でも、ちょっとずつな……」
「えっ……。ああっ……」
天音の手の中でびくん、と流路のものが弾けた。握り続けていると、どくどくと白濁した液体が溢れ、シャワーの水流とともに天音の手を生温く濡らした。
「……流路、はやっ」
「だって……天音が……挿れていいっていうから……」
「きょ、今日はまだダメだぞ！ちょっとずつって言っただろ……！」
「分かった。毎日、ちょっとずつ、慣らそう」
「毎日……？毎日こんなことやるのか……？」
こんなこと毎日やってたらそのうち心臓が破裂して死んでしまいそうなんだけど。天音は一気に不安を感じた。
「天音のイヤなことはしないから……」
「お前っ……！そんなこと言いつつ、いつも強引なんだよっ……！」
「そっか……？ごめん。天音が可愛くてつい暴走してるのかも……」
今はしおらしいことを言ってもこいつはなんだかんだ言ってすぐ手を出してくるのだ。油断も隙もあったものではない。
「……そろそろ、洗って湯船に入ろうぜ」
「うん。洗ってあげる」
「いいって……！自分でや……」
「いいから……」
そうして子供のように天音は流路の手でしっかりと隅々まで洗われて、たまにまた深くキスをされたりして全然気持ちが安らがなかった。
これ以上、心拍数が上がったら本当にどうにかなりそうだったのに、先に浴槽に入った流路に「おいで」と手を引かれ、後ろからすっぽりと包み込まれてしまう。
「……お前と付き合うのって大変なんだな」
「何？愛が重い？」
「うん……」
すると、ふ、と笑って流路が後ろからぎゅうと身体を抱きしめてきた。
そういうのが重いんだっつの、と思うが天音は諦めて流路にもたれかかった。文字通り溺れそうだな、と思いながら。
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