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第12話
一日おきに入院している父親の顔を見に行き、まだ傷が痛むと言いつつも元気なのを確認して、とりあえずこの問題は大丈夫そうだな、と天音は胸を撫で下ろした。
その間、業界的にも慢性的な人手不足なのか、エントリーした数社からはポツポツと面接の日程の連絡が返って来た。事務的な返信を送りながら、また窓から夕暮れの空を眺める。
空なんてどこも変わらないかと思っていたのに明らかに違う。ここの空はどこかいつもぼんやりと薄雲っていて、見ていると胸が苦しくなってくる。
今頃、流路はランチの時間の片付けを終えて明日の仕込みをしている頃だろう。手伝ってくれる人は見つかっただろうか。きっと、あれだけ人望があればすぐに誰か来てくれたはずだ。
天音は思い出す。流路に作ってもらった数々の料理の味や、丁寧に淹れてくれた珈琲の味わい。天音の好みを覚えて少し濃く味付けしてくれていたし、深煎りの豆を使うようにしてくれていた。
決して天音に弱音を吐かず、仕事が忙しくてもいつもマイペースだった。常連のおじさんにたまに彼女がいるのか結婚はしないのかと絡まれてもいつも笑顔で、一度も愚痴るのを聞いたことがない。
そして、何度も天音を好きだと言った。あの指先、優しく触れられたときの手の温度、肌が重なったときの身体の重みと湿度。
そこまでは思い出さないようにしようと思うのに、都内に帰ってきて以来、夕暮れになると決まって流路のことを思い出しては胸が痛くなった。
流路は追っては来なかった。当然だ。店のことだってあるし、振り払うように出てきたのは自分の方だ。あたかも流路のことは本当は大して好きでもなかったのだと言わんばかりの態度で。
心臓と胃の間のところがキュウ、と音を立てて、じんわりと涙が滲んだ。
――どうしよう。やっぱり、俺……。
十月に入って三週目の月曜日、天音は中堅の広告会社に面接に来ていた。以前にいたAWK通信よりは少々格下になってしまうが、どこに採ってもらえるか分からないのだから選り好みはできない。
「では、弊社を希望した理由を簡単に言っていただけますか」
人事担当の、仕立ての良さそうなスーツを着た眼鏡の男が少し微笑んで天音に尋ねた。
「前職も同じ業界で、営業職として広告の制作やプロモーションのイベントの企画に携わっていました。ただ、以前からずっとやり取りしている取引先ばかりでしたので、新規開拓の仕事をしたいと――」
自分の口からペラペラとそれらしき言葉が出て来るのを、どこか遠くの方から眺めているような気分だった。ひとつも本当のことを言っていないような気がするのに、面接官も自分ももっともらしい顔をして相槌を打ったり質問したりして、なんだか茶番を演じているような気にさえなる。
面接が終わると十五時を回っていた。三十五階建のそのビルの、最上階のエレベーターホールから空を見ると、やはりその日も青に灰色の水彩絵の具をぽんぽんと上から塗り重ねたような、微妙な色あいをしていた。
特に寄り道もせず、昼でも観光客と学生で混んでいる山手線に乗って最寄りの駅で降り、コンビニで遅い昼食と牛乳を買った。面接の前にチェーン店系のカフェで軽くトーストと珈琲を口にしていただけだったので腹は減っていた。けれども面接を受けたビルの下にもいくつもの飲食店が入っていたのに、何にも食欲を唆られずに帰ってきてしまった。
――つまらない。
何もかもが色褪せて見える。よく何年もこの街で寝る間も惜しんで働けていたものだ。ここには何でもある、けれど、大切なものだけが足りない。
玄関で革靴を脱いで部屋に入り、おにぎりとサンドイッチが入ったコンビニのビニール袋をテーブルに置くと、牛乳を冷蔵庫に入れた。牛乳をそのまま飲むのなんて大して好きじゃないくせにそれでも買ったのは、どこかで健康バランスを意識したせいかもしれなかった。こちらに戻って来てから一気に食生活が乱れてしまったので、肌艶もどことなく悪く、洗面台の鏡に映る自分の輪郭がぼんやりして見えた。
ジャケットを脱いでネクタイを緩めようとしたそのとき、ピンポン、ピンポンとインターフォンの呼び出し音がした。そういえば今日、通販で買った日用品が届くんだったなと思って「はぁい」と答えて、モニター画面を見ることもせずに玄関に向かった。
すると、「天音……?」と、ドア越しにくぐもった声が聞こえて、ピタリと足を止めた。
「天音、いる?オレだ……。流路だ。開けて、くれる……?」と、いつになく遠慮がちな声が聞こえる。
「は?流路……?」
「うん。急に来て、ごめん……」
天音は足が固まったようになってそこから動けなかった。
「天音、もう、オレのことなんて、何とも思ってないか……?」
「……っ、そんなことっ……!」
声が出たが、小さすぎてドア越しでは流路には届いてないかもしれなかった。
「天音……。天音に『しばらく考えたい』って言われたからオレも考えた。けど、やっぱり……。オレはお前のこと……」
「っ、りゅう……!」
「開けてくれないのか?開けてくれるまで……天音の顔、見るまでここに居座るぞ?」
天音が拒否するつもりだと思ったのか、大きな声で流路は言い、ドン、ドン、と拳でドアを叩く音が響く。
「ちょ、バカ……!」
「なぁ、近所の人にも迷惑だろ?開けてくれよ」
「ちょっと、流路……!」
天音は慌てて固まっていた足を前に動かして、よろけながら玄関のドアを開けた。そこには瑞坂町にいたときよりもずっと情けない表情をした流路が、いつもよりも雑に髪を括って、白いTシャツにチノパンという姿で立っていた。
「バカ、お前っ、玄関先で大声出すなよっ……!」
「やっと、開けてくれた」
「やっとって……俺、さっき帰ってきたばっかだし」
「……出かけてたのか。一時間くらい前に一度来たんだけど、インターフォン押してもノックしても反応無かったから、もしかしたら家にいるのに出ないようにしてるんじゃないかと思って……」
「な、わけないだろっ。ていうか、来るならメッセージ送るなり電話掛けてくるなりすれば……!」
「だって、そしたら断られるかもしれないと思って……。怖かったから、直接来た」
「は……?」こいつ。こいつって。「お前、なんでいつもは自信ありげなのに、こういうときだけ遠慮すんの……」
「天音のことだから。それだけは、オレ、弱いんだ……」
玄関に入って来た流路がそこに立ち尽くしたままなので、「いいよ、上がってくれよ」と天音が促すと、ゆっくりとスニーカーを脱いだ。
「天音……もう、再就職したのか?」
そう聞かれて、天音は自分がまだスーツを着ていたことを思い出した。
「いや……今日、面接だったんだ」
「面接……。またサラリーマン、やるのか……?」
「……そう、思ったけど……」
悲しげな流路の瞳を見た途端、天音は胸の中がぐらぐらと揺れ動くのを感じた。
「なあ、もうオレのことは忘れた?」
「え……」
「オレは、たった半月くらいだけど、ずっと天音に会いたかった。店の予約とかが入ってたから、さすがに放っぽり出すわけにもいかなくて、我慢して営業したんだ。天音にもしばらく考えるって言われたし……。けど、やっと、店が落ち着いたから来た。……なあ、もう、ダメなのか、オレたち?」
「そんなこと……っ」
流路の右手がおずおずと天音の頬に伸び、大きな手のひらに顔の半分を包み込まれた。その乾いているのに温かみのある感触に、心臓がどくんと大きく音を立てる。
「オレ、天音がもし東京でやっぱり働きたいって言うなら、オレもこっちに戻ってもいいよ」
「は、なに言ってんの……」
「オレ、女々しいよな。けど、泣いて縋ってでもいいから、天音のことを取り戻したいって思ったから、来た」
「流路、お前……」
「店は誰かに譲ったって、閉めたっていい。また東京で何かやればいいし……。なあ、それでも、ダメかな、天音?」
「……バカっ!」
天音は思わず叫ぶと、ギュッと流路に抱きついた。たった半月程度しか離れていなかったのに、もうその匂いを嗅いで懐かしいと思った。
「そんな、情けないこと言うなよ……俺なんかのためにっ……」
「『俺なんか』じゃないよ、天音。オレがずっと……高校の頃から天音のこと好きだったの、知ってるだろう?あれくらいのことで諦められるわけないじゃないか」
「流路……お前って、ほんとにバカだ……」
天音は知らず知らずのうちに自分の頬が濡れているのを感じた。流路のTシャツの襟のあたりに涙が落ち、染み込むのが分かる。肩の震えを抑えることができない。
「天音……泣いてるのか?」
「流路が、バカだから……。俺だって……俺だって、やっぱりお前のこと……」
「オレのこと、どう思ってる……?」
「分かるだろっ……」
「分からない。教えて。天音」
「……お前のこと、好きだ……」
「天音……」
「俺、やっぱり周りから変に思われたって……あの町で生きにくくなったって、お前のこと、好きなんだ……」
「天音……!オレだって……」
流路の腕がぎゅう、と天音を骨が軋むほど強い力で抱き締め返した。
「天音、あのさ、澤木さん……あの翌日、すぐ謝りに来てくれたんだ。『どうかしてた』って。オレのことが瑞坂町に初めて来たときから好きだったから、つい嫉妬してあんなこと言った、って。偏見なんか持ってないはずだったのに、どうにかしてオレたちのこと、傷つけてやりたいって気になってしまったって……。天音にも謝っておいてくれ、って言ってた。きっと、本心じゃないんじゃないかって。オレのことが好きなのに天音は無理してああ言ったんじゃないかって……」
「……なんだよ……。バレてるのかよ……」
「天音がきっとウソ言ってる、ってオレだってもちろん分かってるつもりだった。けど、目の前から急にいなくなって不安になったんだ。もしかしたら、あれは本心で……本当にもうオレのところには戻って来ないんじゃないかって……」
「流路……ごめん。俺、わざとそっけなくして……。その方がもしかしたらお互いのためかもしれないってちょっとだけ思ったんだ。……けど、やっぱりダメだった」
「天音……」
「こっちで就職して、まっとうな道に戻った方がいいのかって思ったんだ。けど、何やってもピンと来なくて……。景色も全然違って息苦しくて、何食べても美味しくなくて……。流路のそばに行きたいって思った。流路の作ったもの、食べたいって思った……」
「本当?天音」
「うん。最近、何食べても、味がしなくって……何も食べられる気がしなくって、困ってた……」
「バカだな。すぐオレのところに帰って来ればよかったのに」
「だって……」
「天音。なんか、作ってやろうか?お腹、減ったんだろ?」
「うん……」
「どうせ自炊なんてしてないんだろ?材料、買って来てやるよ。なにが食べたい?」
「その前に……」
「ん?」
「流路……。キス、していいか」
「え……」
腕の中で身じろぎして、顔を上げると、流路の唇にそっと唇を重ねた。少し厚くて、しっとりした唇を挟んで、ちゅう、と吸う。流路はビクリとしたかと思うと、天音の後頭部をぐっと掴んで噛み付くようにキスをしてきた。
「ふぁ……。ん、流……」
「久しぶりに会ったのにそんなこと言われたら……。もう、我慢、しないからな……!」
そう言った途端、流路の指が天音のネクタイにかかり、するりと解かれた。唇を重ねたままひとつずつもどかしいような手付きでシャツのボタンが外され、全部が取れると一気に胸をはだけさせられて、そのまま後ろ向きに歩いてベッドに倒された。
天音の上に跨ったままTシャツを性急な動きで脱ぐと、流路は天音に覆い被さった。胸を舐め始めた流路の頭をそっと撫でて、「流路……ちょっと待って……」と天音は息を切らしながら流路を留めた。
「どうした?」
「たまには、俺からさせて……」
「え……?」
天音は流路の胸を押して体勢を起こすと、逆に流路を寝かせて、太腿の上に跨った。
チノパンのボタンを外すと、下着ごとそれをずり下げる。
「天音……?」
抑えるものを失って流路のものが天音の目の前に勃ち上がった。さらに大勢を後ろにずらして、その根元を掴む。
「ちょ、天音、そんなのいいって……!オレ、さっき来たばっかだし……汗、かいてるからっ……」
「別に、大丈夫……」
本当に何も気にならないのが不思議だったけれど、どうしても自分の方から流路に何かしてやりたかった。
「……あったかいな」そう言って天音がペロ、と先端を舐めると、「ぐっ……っ!」と流路の抑えた声が零れた。
「ごめん……あんまり入んないかもしれないし、下手だと思うけど……」
そう言うと口を大きく開けて、亀頭の部分だけ口腔に含んだ。少しだけ潮の味のするそれの、括れた部分の裏側を舌先でなぞるようにすると、「はあっ、っ……天音……ダメだって……それ……」と流路の腰がビクつく。
流路の反応を見ながら、自分のスラックスの中のものも痛いほど硬くなってきているのが分かって、自然と両脚をむずむずと擦り合わせてしまう。
「ぅんっ、天音……ヤバいって……そんなことしたら、すぐイくからっ……」
「イって、いいよ」
じゅ、と先を吸うと苦い液体が溢れ出す。それを舐めとるように舌先で鈴口を転がした。
「んぅ、ダメだって、天音……待って……!」
腰を浮かせた流路は、天音の頭を優しく押した。
「なんだよ、もう……」と、口元を拭って抗議する。
「ダメ……。まず、天音のナカでイきたい」
「……ばーか」照れ隠しに悪態を吐いた。
すると、身を起こした流路が天音の胸をトン、と押して再び寝かせた。カチャカチャとベルトのバックルを外しながら、「天音のスーツ姿、いいな……」と呟く。
「……変態め」
「変態じゃないよ。天音のことが好きだから……。いろんな格好が見たいんだ」
「……はいはい」
ボトムスを完全に剥かれてから両脚を持たれ、胡座をかいた流路の腰の上にグイと下半身が引っ張り上げられた。
「ちょ……」
「天音……これ、借りる」
そう言って流路はベッドの横に置いたサイドテーブルの上にあった肌を保湿するためのローションを手に取った。
「うわっ、そんなの」
「肌に塗るものなんだから、大丈夫だろ?」
確かに天音の部屋には誰かと寝るときに使うローションなど置いていなかった。
「流路、ゴム、持ってるか……?」
辛うじてコンドームはどこかにありそうな気はしたが、サイズが違うはずだ。男としてのプライドに関わることだから、さすがにあまり口にしたくなかったが。
「ごめん、忘れた」完全にそのことは失念していたようで、至極残念そうに流路が言う。
「……いいよ、もう、無くても……」
「ほんと……?」
「うん」
天音が頷くと、流路は安堵したような、それでいて興奮を抑え切れないような表情でローションを手のひらに垂らし、指にドロリと纏わせた。
やがてその何本かの指が、思い切り脚を開かされた天音の中央にあてがわれ、優しくマッサージするようにそこで円を描くような動きをしてくる。
「ンっ……」
久しぶりの指の感触にビクリ、と身体が反応する。カーテンは閉めたけれど外はまだまだ明るくて、きっと流路の目にははっきりとその部分が見えているに違いない。恥ずかしいのと同時に腹の奥がずきずきと疼くような感じがして、気分がどうしようもなく昂って来てしまう。
天音と視線を合わせながら流路は、ねち、というような粘り気のある音とともに指を中に滑り込ませてきた。
「ん、あ……」
「大丈夫、天音……?」
「うん……」
ゆっくりと出し入れされる指の動きに、ぴくぴくと自分のものが呼応する。すぐ二本に増やされた指は、的確に天音の一番感じやすいあの場所を擦り始めた。
「天音……会わない間、自分でした……?」
「んんっ、そんなこと、してないって……!」
離れている間、流路のことを思い出しては、本当は身を熱くしていた。前だけでなく後ろの方にも、うずうずと流路の指や性器の感触が蘇ってきてしまって、何度も手を伸ばしかけたけれど、ついに自分で触ることはできなかった。今、やっと本物の流路の指に触れられたそこは、待ちかねたようにひくひくと収縮しているような気がする。
はぁ、はぁ、と流路は呼吸を荒くしながら天音の目を見て一心に後ろを和らげている。解すためにずっと我慢してくれてるんだ、と流路のことをいじらしく思った。
「もう、いいから、流路……挿れろよ」
自分のその言葉に頬を染めながらも天音は促した。
「いいの?」
「うん、はやく……」
まるで強請るみたいな声が出て、ますます顔が熱くなる。
「それ、たまんないな、天音……」
さっきからずっと張り詰めていた流路のその先端が、天音の柔らかくなったそこに当たると、グっ、と中に捩じ込まれた。
「……ん、うっ……っ。んんっ……」
「はぁっ、天音……もう、待てないっ……」
目をギュッと閉じた流路が切羽詰まったような口調で小さく叫ぶ。
「いいよ、流路、動いて……」
すると一気に流路のものが天音を奥まで貫いた。
「ひっ――っ、……あ……っ」
「っ、ごめん、天音……」
「んっ、だい、じょぶ、だから……っ」
ずるり、と抜かれてはまた、ずん、と入ってくる衝撃に天音は息を詰まらせた。胎はらが流路に蹂躙されて、その存在感で埋め尽くされる。しかし苦しかったその動きは、律動が少しずつ落ち着いてくるに従ってじわじわと快感をもたらした。
「ん、あ、あっ、流路……」
シーツをギュッと掴んで、与えられる振動と身体の奥から湧き上がってくる疼きに耐える。ゆっくりした抽挿のたびに流路の先端と括れた部分があの場所を擦り、その度に天音の性器もじわりじわりと透明な液体を溢し始めた。
「天音、前も、触る……?」
「あっ、けど、触られたら、すぐっ……」
今、少しでも触られたら一瞬で爆発してしまいそうなのに、すっかり硬くなったそこは流路に奥を突かれる度に、どうかここにも触れてくれと主張するかのように屹立していた。
「でも、触ってほしそうだから……」
ゆっくりと腰を前後するのを続けながら頬を少し綻ばせて流路はそこを優しく握ってきた。
「あっ、あ、もっと……」
「もっと強く?」
答えるより先にぐっ、ぐっ、と扱く手のひらに力が籠り、天音は背中をのけぞらせた。
「はぁっ……!あっ……あ……」
繰り返される後孔への刺激と性器への強い圧迫で天音は自分が失神するのではないかと思った。それくらいチカチカと脳裏に強烈な信号が走り、頭が真っ白になって何も考えられなくなる。
「天音っ、天音……」
目を閉じてうわごとのように繰り返す流路の、打ち付ける腰の動きがまた速くなった。
「ん、っ、はぁっ……!」
最奥を突かれて、何かがパン、と破裂するような感覚が全身を包み、ガクガクと大きく腰を震わせながら、生温い飛沫が自分の腹と胸に飛ぶのを感じた。
(あ、俺、イってる……)
けれども、達したはずのにまだ貪られるように犯され続けている後ろの方は戦慄くような快感に包まれ続けていて、怖いような気持ちが広がる。
「あ、あ、りゅうじ、俺、なんか、おかしいっ、あ、ん……っ」
身体の変化に本能的な不安を覚えて天音は涙声になった。
「天音……。オレも、もう耐えられなっ――」
激しく腰を震わせた流路を見上げていると、やがて身体の芯に温かいものが注ぎ込まれるのが分かった。びくん、びくん、と収縮を続けている天音のそこは呑み込むように流路の吐精を受け止め続けている。
ぐ、ぐ、と押し付けるようにして残りを吐き出した流路は、それでも天音の太腿をがっちり掴んだまま、出て行こうとしない。圧迫感は少し和らいだが、流路は中に出したものを擦りつけるようにまた緩やかな抽挿を始めた。すると、天音の中にもまたじわじわとした快感が蘇ってきてしまう。
「りゅうじ、っ――。んっ、抜いて……」
「でもまだここ、締め付けてくる……」
「ん、だからっ……!恥ずかしいこと言わないでくれ……っ」
「はは……」
笑いながらも流路は掻き回すような動きを止めてくれなくて、天音はまた追い詰められるような、切なくて堪らない感覚が下半身に広がっていくのを感じて涙目になった。
「はぁっ、あ、流路……も、ゆるして……」
「……天音のナカはそう言ってないみたいだけど?」
ぐち、ぐち、と、粘っこくていやらしい音を立てながら中央が掻き回され、天音の腰がまたびくびくと悦ぶように疼いた。
「あ、あっ、あ……」
「天音、またイってるの……?」
「んんっ、流路がっ、動かす、からぁっ……」
「可愛い、好きだよ、天音……」
覆い被さってきた流路がちゅ、ちゅ、と頬に、唇に、首筋にキスを落とす。飛びそうな意識の中で、その愛情の重さと強さを感じて、なんとも言えない、蕩けるような幸福な気持ちが天音の胸に迫った。
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