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第一章 3

 半ば自棄(やけ)気味に口走る。  しかし、よくよく考えてみれば、すごいセリフだった。顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。 「ですね。じゃあ、明日……。約束してくれますか?」 「おうっ。何回だってしてやるっ」  なんでこう、この口は余計なことを言うんだと、泣きそうになるが、 「詩雨さん、約束ですよ」  と問われれば、 「あたりまえだ」  そう答えるしかなかった。もう引っ込みがつかない。 「……じゃあ、今日はこれで寝ましょう」  オレの顔を自分の胸に押しつけ、ぎゅっと抱きしめた。 「おやすみ、詩雨さん」  ちゅっと髪に軽くキスをして、遙人は目を閉じた。  しかし、その欲望の証は実はまだ萎えてはおらず、オレは腹の辺りにその熱を感じていた。 (いやいやいや、これは眠れないだろーっ)  きっと、そのうち収まる筈と思い、遙人に抱きかかえられたまま、オレは物想いに(ふけ)った。    遙人は四年間過ごしたこの部屋を出て、明日から『STUDIO (スタジオ )SHIU(シウ)』──オレの仕事場の三階にある自宅で一緒に暮らすことになる。  まさか、同棲……いやいや、同居する日が来るとは思わなかった。全く考えなかった、わけではないんだ。  何しろ『ハル』は海外からも依頼の来る人気モデル。忙しさは半端ない。カメラマンに復帰したオレもそこそこ仕事は舞い込んでくる。  どうにか隙をついては数時間どちらかの家で過ごしていた。しかし、お互い繁忙期が重なると会えない日々がひと月ふた月続くことさえあった。  こんなことを言うのは女子みたいで、正直気持ち悪いかも知れないが、淋しいと思った。遙人に会いたくてしょうがない時もあった。  『ハル』との仕事があっても、その後夜を一緒に過ごせないことに却って切なさを増していた。  お互い帰る家が一緒ならどんなにいいだろう。例え話せる時間がほんの少しだとしても。  しかし、本気で『同居』を言い出すことはオレにはできなかった。  男女の恋愛だって不安定なのに、オレたちは同性同士。いつまで一緒にいられるのか。  しかも、遙人は世の女性たちにはかなりの優良物件だろう。いくらでも世間が認めるような恋愛だってできるはず。  そう思うと──遙人を同居という形で縛ることができなかった。遙人からもこれまで同居の話は一度もなく、考えたこともないだろうと思っていた。  そう思いながら、月日は流れ──。

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