4 / 22
第二章 1
それは十二月の初め頃。
『この出来事』が起きてから、また十二月かと溜息をついた。
とにかく人生で十二月というのは、不運の月と言っても過言ではない。良くない出来事が起きがちなのだ。それもオレのその後を左右する大きな出来事が。
その日は、打ち合わせの為電車で移動していた。撮影ともなると機材もあるので車で移動するが、打ち合わせの時は余程交通の便が悪い場所でない限り、公共交通機関を使う。
電車に揺られながら、車窓の景色や行き交う人々を眺め、写真の構図や素材のイメージを膨らませるのも楽しみのひとつだ。
ふと、視線を感じるような気がした。つり革に捕まっている自分の斜め下辺りから。オレは車窓の景色から視線を落とす。
「ハ……」
ハルと叫びそうになり、慌てて口を噤む。オレの前に座っている男性がちらっとこちらを見たが、すぐに手にしていた週刊誌に眼を戻した。
本物の遙人ではない。正にその男性が持つ週刊誌、それだ。その表紙に『ハル』はいた。
(あ、びっくりした──そうだよな。今に始まったことじゃない)
これまでも、何種類もの週刊誌、女性誌の表紙を飾るようになってから、しばしば見かけることはあった。有名所の女性誌なら中吊りにさえなる。
しかし、今回のはいつもとはちょっと違う。よくよく見ると、それはゴシップ記事中心の三流週刊誌。
(ん? んん?)
見出しはこうだ。
『人気モデルのハル。熱愛発覚!?』
この手の週刊誌にはよくある言葉。最後のクエスチョンマークなんておまけなくらいに小さい。
更に『深夜の密会。お相手は……』とこれまたありがちな煽り文句。ハルのアップの下に小さく二人で写っている不鮮明な写真。お相手の名前はそこには書かれていなかった。
(おじさん! 見せて!)
取り上げたい気持ちだったが、もちろんそんなことができる筈もなく、オレは目的の駅に着くと売店でその週刊誌を手にしていた。
買ってきた週刊誌をベッドの上に放り投げ、ごろんと寝転ぶ。そのページを開いたものの、写真だけ見て記事を読む気にはなれなかった。
ただ、表紙よりも写真は大きく鮮明だし、相手の名も書かれていた。
『美人モデルのRina 』
オレもよく知っている。一緒に仕事もした。
『Citrus のモデルに起用されていて、タチバナ・コレクションでも常連だ。Citrusは、大手服飾系企業『タチバナ』のブランドのひとつ。
(これは……絶対、ガセ……)
そんなのは、雑誌の表紙を見た時からわかっている。もしこれが真実だったとして、遙人がそれを隠す筈がない。たぶん、はっきり言うだろう。
「他に好きな奴がいる」
と。
二股をする狡さを持っていない男だ。
ともだちにシェアしよう!