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第二章 2
『ハル』がモデルとして活躍するようになってから数年。こんなゴシップ記事は一度も出てこなかった。それ程ストイックに生きているのだろう。オレに誠実であろうとしている結果かも知れない。
だから初めてのスキャンダルにオレは動揺した。そして、改めて考えさせられる。
話題になるとしても、これが自然だ。美男美女が並ぶ写真。遙人が寄り添う相手として、彼女はとても相応しい。こうやって記事になったとしても、そんなの有名税にしかならない。
しかし、これがオレだったとしたら?
まだまだ同性同士の恋愛に理解のある世の中ではない。『ハル』にも相当なダメージがあるだろう。
(オレは……遙人に相応しくない)
今オレの頭に浮かぶのは、そんな言葉。普段は気づかない振りをしながら、胸の片隅にいつもいる。
それがあの記事によって顔を出し、オレの頭いっぱいに広がっていく。見た目と違うネガティブ思考は昔と変わらない。
男女の間にだっていろいろある。ずっと一緒にいられないことだって、心変わりすることだって、ケンカ別れすることだってある。
それを考えると、オレたちは余計……。
同じ男であるオレが、遙人を縛ることなんてできない。いつかそんな日が来るかも知れないことは、覚悟しておかなければならないんだ。
「……ぅさん? しうさん?」
誰かが優しくオレを呼んでいる。どうやらオレは考えごとをしながら眠ってしまったらしい。返事をしようと思うのになかなか浮上できない。
『誰か』がオレの肩を優しく揺する。
「しうさん。詩雨さん、風邪ひきますよ」
「──ハル……」
漸 く眼を開けることができ、オレの名を呼んだ『誰か』の顔を確認した。
「遙人……来てたんだ」
「今来たところ。詩雨さん、いくら暖房が点いてるからって、何もかけないで寝てたら風邪ひきますって」
オレは身体を起こしてベッドヘッドに寄りかかった。壁掛けの時計を見ると十二時をまわっていた。
「こんな時間に来なくても。家に帰って休めばいいだろ」
出た声は妙に掠れていた。
「…………」
遙人がオレの顔をじっと見ながら、何か考えている。
「詩雨さん、何か怒ってます?」
「え? 別に怒ってなんか……」
そう言われてやっと気がついた。ずいぶん刺々しい言い方になってしまったこと。そして、自分がかなり不機嫌だということ。
これくらい遅くに来ることも今まで何度だってあったのに、今更口にするなんて。
(オレ……やっぱり、あの記事気にしてるのかも)
あの記事とその後に自分が考えたことが尾をひいているんだ。
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