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第二章 3
「あ……それ……」
オレが黙り込んでいる間に、身体の下に半分隠れた雑誌に遙人が気づいた。あのページを開いたままの。
「詩雨さん、違いますよ」
「気にしてないっ」
オレは遙人が話し切る前に言葉を被せた。
遙人もその週刊誌の存在を知っていたのだろう。それでオレが不機嫌なんだと思ったに違いない。そう思われたことに更にもやっとしたものが広がる。
「あの時。その写真を撮られた時は、Citrus の衣装合わせの後で他に何人もいた」
何人もいるのに、さも二人しかいないように撮る。
(ありがち!)
そうは思っているのに。
「でもさー。この写真。これって、すごく自然だよなー」
「え? 何?」
「おまえとリナ、美男美女でお似合いってこと」
頭の中はぐちゃぐちゃ。心にもない言葉が勝手に飛び出してくる。流石に遙人の眉間に皺が寄った。
「何言ってるんです? 詩雨さん、俺は――」
ぐっと肩を掴む手をオレは払い除け、布団に潜り込んだ。
ふ……っと小さく溜息が聞こえ、遙人が静かに部屋を出ていく気配がした。
翌朝。
あんなにむしゃくしゃした気持ちだったのに、最後には寝てしまったらしい。
勿論部屋の中には遙人はいなかった。少しの期待を込めて隣のゲストルームを覗いても、使った形跡もなかった。わかっているのに、外に出て遙人の乗る大型バイクが置いてないことさえ確認してしまう。
ほんの数分の、たいした会話らしい会話もしていない。オレが勝手に拗ねただけ。
それなのに。この出来事は、だいぶ長い時間尾を引くことになった。
特に忙しい十二月だからということもあっただろう。お互いに時間を取るのが難しかった。連絡くらいすればいいものの、何処か気まずくてオレからはできず、そして遙人からもなかった。
遙人がこれだけ長い間連絡を寄越さないのは、やはりかなり怒っているのではないか。そう思うと余計に連絡できない。
そして、ふたりで過ごそうと思ったクリスマスも過ぎ、年も明けてしまう。やはり、この時期には録でもないことが起きてしまうのだ。
ちなみにこの騒ぎの原因となった、例のスキャンダルは、それ以降どの雑誌でも情報番組でも話題にはならなかった。まるで最初から存在しなかったかのように。
遙人の祖父はメディア系の大企業サクラ・メディア・ホールディングスの社長だ。そんな大物にケンカを売るバカはいないということだ。
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