7 / 22

第三章 1

 世間の正月気分も抜けた頃、春向けの企画がちらほら舞い込んでくる。  何度か依頼を受けたことのある大手広告代理店『リーフデジタル』からのメールをクリックする。仕事内容はこれも大手の化粧品メーカー『ファルファデ』の春の新作シリーズのポスターとCMだ。  オレも最近はフォトだけでなくCM撮影もするようになった。  オレはその依頼を受けることにし、承諾のメールを送った。 「…………」  この時、なんとなく嫌な予感がした。それが何なのか掴めないまま、そんな予感がしたことすら忘れてしまった。 (あ……ああ……)  彼女の顔を見た瞬間、オレは忘れていた筈の『嫌な予感』を思い出した。その予感が何なのかも理解する。オレは誰にも気づかれないくらいに小さく溜息をついた。 (確か……あの時のメールでは、別の……)  直前でモデルか変更することは、ままあることだ。  今回の依頼内容は、三タイプのメイクのポスターと、CM。女性モデルが三人。ポスターは女性モデルのみの撮影。CMはこれに男性モデルが一人加わる。  今日はポスター撮りのみでCM撮りはない筈だが、男性モデルも見学に来ていた。女性モデル三人のうち一人と、この男性モデルが当初と違っていた。 『ハル』と『Rina(リナ)』。選りにも選ってこのふたり。 『ハル』はスタジオの端の壁に寄りかかり、じっとこちらを見ているが、無表情。他の二人の撮影中、物言いたげにちらちらと視線を寄越す『Rina(リナ)』。  かなり居心地が悪い。しかし仕事は仕事。オレは気を取り直して撮影に集中をする。  二人目の撮影が終わり、一旦休憩に入る。に、ちらっと視線を遣ると、相変わらず遙人が無表情で見ている。 (なにっその顔っ。まだ怒ってんのっ?)  以降顔を合わせたのは今日が初めて。もう半月は経っている。 (謝ってないオレが悪いんだけどっ) 『Rina(リナ)』の撮影に入ると、困ったことに物言いたげな視線が倍増。ファインダー越しにめちゃめちゃ圧を感じる。写真にはすべて映しだされてしまうだろう。 (いや、いいよ。こんな顔も魅力的。でもな……) 「ごめん、いったん休憩いい?」 「え? 休憩ですか?」  その場の一堂が不思議そうな表情をする。それはそうだろう。ついさっき休憩を取ったばかりだ。 「ごめん」  自分の眼の前に右手を立てて謝る。 「リナ!」  オレは彼女に声をかけ、廊下に連れ出し、二つ先の控え室のドアを開けた。ここはオレ用に使わせて貰っていて、中には誰もいない。オレは誰もついて来ていないことを確認してからドアを閉めた。

ともだちにシェアしよう!