8 / 22
第三章 2
「リ」
「ごめんなさいっ」
とりあえず椅子に座って貰おうと声をかけた瞬間、いきなり頭を下げられた。
「リナ? 何謝ってんの?」
「ハルくんのこと! ほんとに全然違うんです! あの記事でたらめなんですぅ~~。他にも人いたんですよぉ~~」
この世の終わりのような顔をして必死に訴えてくる。オレはふっと小さく笑った。
「あ、うん。わかってるよ?」
「で、でもっ! あの記事が出た後、詩雨さんに会って貰えないってハルくんが」
安心させるつもりで言ったけど、リナは更に必死な顔になる。
「ごめんなさいっ。私のせいなんです。あの記事の記者と揉めたことあって~~腹いせに~~」
言っているうちに自分でも興奮してきたのか、眼に涙を溜めている。
それにしても。
(何言ってんだ、遙人のヤツ。自分だって連絡してこなかったくせにっ)
しかも、それをリナに言うなんてと、やや怒りを覚えたものの、それは顔には出さず、より優しげな表情を彼女に向けた。
「そうか。それは大変だったな。たぶん、サクラ・メディアが手をまわしたんだろうから、もう大丈夫だよ」
「詩雨さん……」
とうとうぼろっと涙が零れ落ち、
「詩雨さーん」
とオレの名を呼びながら、顔をぐっとオレの胸に押しつけてくる。びっくりして、どうしたものかと考えたが、とりあえずよしよしと頭を撫でてやる。
「ほんと、違うのっ」
胸許で泣きじゃくりながら。
「ハルくんとはそんなんじゃないんですっ。私、ハルくんより、詩雨さんのことがっ」
「んんっ?」
なんか今、爆弾宣言を聞いたような……。
リナが涙でぐしゃぐしゃにした顔を上げ、オレをじっと見る。
「私っ、詩雨さんのことが、す――」
バァァァンッ。
「リナっ!!」
思い違いでなければオレへの告白であろうリナの言葉は、ドアを激しく開ける音と、彼女の名を呼ぶ声で掻き消された。
「ハル」
「離れてっ」
ベリッと音がしそうな勢いでオレをリナから引き離し、自分の背に隠した。
「やだっハルくん、盗み聞きっ?」
リナはもう泣いてはいなかった。
「どさくさに紛れて、何やってんだ」
「ハルくんて、そんな顔して、実はめちゃめちゃ嫉妬深いよねっ。そんなんじゃ、いつか詩雨さんに嫌われるよ。あ、会っても貰えないんだから、もう嫌われてるかも~。ねっ、詩雨さんっ」
横からオレの顔を見ようとするリナの頭を、ぐっと遙人が押し退けようとする。
「うるさいっ。お前はちゃんと仕事しろっ。詩雨さんは俺を嫌ってなんかないっ」
ふたりでわあわあ言い合いを始めてしまった。
(待って……ちょっと、待って待ってっ。これってどういうこと? リナはオレとハルの関係を知ってるのか? それとも単純に友だち関係として言ってるのか??)
オレは頭を真っ白にして立ち尽くした。
ともだちにシェアしよう!