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第三章 3
オレもどうにか気を取り直し、リナもメイク直しをし、撮影は再会された。
オレにすべてを話し、すっきりした彼女はまたさっきとは違う表情をしている。どちらを使うかは写真を見てからだ。
いつの間にか遙人はスタジオから姿を消していた。今日こそは話ができるかと思っていたオレは、切ない気持ちで車を走らせた。
ガレージ近くまで来ると、黒い大型バイクとその横に立つ男の姿が見えた。
オレの自宅兼仕事場。三階のオレの自室。
コーヒーの入ったマグカップがふたつ置かれたローテーブルを挟み、向かいあって座っている。どちらも話しだせず、ただ気まずい空気だけが流れていた。
遙人の顔を見ると、何かいろいろ考えているような表情をしている。話そうか話すまいか迷っているようで、時々唇をものにょものにょと動かしている。
「……詩雨さん」
ちらっと視線を寄越す。
「ん……」
この空気を打ち破ってくれそうで内心ほっとする。
「詩雨さん……俺のこと嫌ってなんかいませんよ……ね?」
ちょっと頼りなげな年下感を漂わせてくる。こういう顔をされるのは本当に弱い。
遙人は自分では否定したものの、リナの言葉を実はかなり気にしていたのかも知れない。
(嫌いなわけがないだろっ)
素直に言うのが悔しくて、
「遙人のほうこそ、この間のこと怒ってるんじゃないのか?」
そうつっけんどんに言い返してしまった。その途端遙人の顔がむうっとしたものになる。
「怒ってるのは詩雨さんですよね? 連絡くれなかった」
「ハルこそっっ」
そこで再び、しん……と静まり返る。
オレはふ……と小さく溜息をついた。
「あ、のさ。……ほんとは、あんなこと言うつもりじゃなかったんだ。自分ではあんな三流週刊誌の記事なんて気にしてないつもりだった。でも……オレたちのこと、やっぱり大っぴらには言えないだろ? 遙人とリナがすごく自然で、お似合いに見えて……いつか、遙人がいなくなっちゃうような気がして……。でも、おまえのこと縛ることできないよな……なんて」
あの時のなんとも言えない気持ちが再燃し、ぽろっと片側の眼から涙が零れた。
「遙人が連絡をくれないのは、怒っているからだろうと思った。だから、気まずくて連絡できなかった」
「詩雨さん……」
大きな手が伸びてきて、その指先がオレの目許を拭う。
「あの時、なんかいつもの詩雨さんと違うような気がして……。詩雨さんが本気で怒ってるんだろうって思ったんだ。忙しいからと自分に言い訳して連絡しなかったけど、本当は怖かった。俺、嫌われたじゃないかって。時間が経てば経つ程連絡しづらくなって……」
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