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第三章 4
遙人がぐっと両肩を掴んできた。何かを決意したような顔をしている。
「詩雨さん」
「うん?」
「俺たち一緒に住みませんか?」
「んん?」
一緒に住む──何度か思い浮かべて打ち消した。会えない時も多いけど、お互いの家に行き来するだけで充分だと。
そこまで遙人を縛ることはできないと。
「遙人……でも、オレ、おまえのことそこまで縛ることなんてできないよ」
「何言ってるんです? 詩雨さん。縛るのは詩雨さんじゃなくて、俺ですよ。俺が詩雨さんを離したくない。俺、うざいですか?」
「や……うざくなんか。でも」
なんかすごいことを言われたような気がして、一気に頭がのぼせる。
「まだ、何かあります?」
突然のことで頭が整理できない。でも言いたいことはたくさんあるんだ。
「男同士でって。もしおまえに不利になるようなことがあったりしたら」
「俺は全然かまわないですけどね。でも詩雨さん、男同士で同居したって別になんとも思われないですよ」
「え……そう……」
言われてみれば、同居自体はおかしくはないのかも知れない。
もんもんとしていたものが、だんだんと晴れていく。
「他には?」
「おまえ、なんで、突然。そんなこと今まで一度も──オレ、おまえはそんなこと考えてないと──」
「突然なんかじゃない、ずっと考えてた──え? てことは、詩雨さんも!」
「え、いや」
いきなりめちゃくちゃ笑顔。尻尾を振った犬のよう。弁解しようとしても、もう聞いてもいない。
「忙しくて一緒の時間を取れないのは変わらないかも知れない。けど! 一緒のところに帰れるんだってだけで気持ちが違う。俺、この先ぜったい詩雨さんを不安になんか、させない」
テーブルを挟んで遙人がオレをぎゅうっと抱きしめる。それから、ふたり見つめ合って、唇が触れ合うくらいに近づいて──。
「あ、そう言えば、リナはオレたちのこと知ってんのか? ハル、話した?」
「詩雨さん。今、それ言う?」
せっかくいい雰囲気だったのに……と口の中でぶつぶつ言ってから。
「リナが詩雨さんのこと好きなの知ってた。詩雨さんがカメラマン復帰をした頃、今度仕事が一緒になったら告白するって言ってて。だから、牽制した、俺たちつき合ってるって」
そんな前からという事実に驚く。
リナの言葉じゃないが、かなり嫉妬深いかも。
でも、それも嬉しいと何処かで感じる。
「リナはそういうとこ偏見もなかったし、口も固いから。あの記事のことを謝るって言ってたけど、余計なことまで言うんじゃないかと思って」
「だから、今日の撮影について来たのか、おまえ用なしだったのに?」
「用なし言うなー。もう、リナのことはいい。ね、詩雨?」
オレを抱きしめる腕に力が入り、再び唇が近づいてくる。
久々に甘くなりそうな予感がした。
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