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第四章 1
遙人がオレの自宅に越してくることはそれ程大変ではなかった。彼は余り物に執着がない。
家具はオレの自宅にあるもので賄えたので、そう多くはない衣類と、ふたりで揃えた食器以外はすべてリサイクルショップに任せることにした。
引っ越しの日程が具体的に決まってから、お互いの家へ行き来する時に少しずつ運んでしまい、当日はオレの車に入り切るくらいになった。
オレたちは、ショップのスタッフが荷物をすべて運び終えるのを待って、最後の掃除をし、その日のうちに引き渡してしまった。
名残惜しげに桜を振り返り、オレたちは車へ乗り込んだ。
『STUDIO SIHU 』というプレートが下がった扉を開けると、すぐ眼の前に階段がある。その上の方から妙に騒々しい雰囲気が感じられた。
(やれやれ……。全くの想像通りだ)
オレは内心溜息をついた。遙人が越してきたというだけで、それ程今までと変わりはないというのに。
引っ越し祝いをすると言って聞かない天音に、鍵を預けていた。上からしてくる気配は一人や二人ではない。いったい何人押しかけて来てるやら。
階段を上がり切った、三階の自宅スペース前の踊り場には、たくさんの靴が並べられていた。
(なんか、思ったより……)
ある程度は覚悟していたが、来客は思ったよりも多そうだ。
「なんか、靴たくさんありますねー。いったい誰が来てるんですか」
「んー?」
オレも首を傾げた。
これから遙人の部屋にもなるオレの自室にはところ狭しとまではいかないが、かなりの人数が入っていた。
遙人の事務所の社長であり、オレの長年の友、桜宮 夏生 。
Citrus のメインデザイナー、羽衣 陽向 。
(なんでー?)
リナまでいる。
(おいおい)
やっぱり今はちょっと複雑な気分だ。
それから、姉夫婦。小学生になった姪の黄柰 。本当は両親も来たがっていたが、姉の朱音 が止めたらしい。
それから兄の天音 と──眼鏡をかけた背の高い男。
(誰っ?!)
そんなオレの心を読み取ったように、天音が彼を連れだってオレたちの前にやって来た。
「聖愛 の初等部の時からの友人だよ、桂川 四季 くん」
「あ、初めまして」
オレは軽く会釈した。
(そんな前から続いてる友だちなんて、いたんだ)
そう思いながら、何でこの男 がここにいるのかわからなかった。
「詩雨くんもちらっと見たことあるはずだよ? ほらほら」
彼のほうを指差す。
「指、差すなよ」
桂川がその指を軽く払う。
「え……そうなんですか?」
「あ、でも、そうか。あの時は全然詩雨くん余裕なかったもんね。冬馬 くんがいなくなったあの時、あの男を治療した医者っ!!」
天音が再び指を指す。桂川はその指を今度はぎゅっと握って下へ押しやった。
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