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第四章 2
オレがずっと好きだった幼馴染みの冬馬。
彼が彼の恋人・秋穂 の義兄を刺して姿を消した時、オレは確かにまわりを見る余裕すらなかった。
天音に頼って、彼の友人のいる病院に運んで貰った。その時の医師が桂川ということか。
「それから、高等部の時には詩雨くんもお世話になったでしょ。覚えてないかなー」
もちろん覚えてますとも。
やはり同じく冬馬が秋穂の義兄を気を失うまで殴りつけた事件。
あの時はその義兄と冬馬。義兄に傷つけられた秋穂・そして冬馬を止めようとして殴られたオレの計四名が病院に運ばれた。
それを天音と共に手伝ったのが────。
しかし、記憶は曖昧で、今眼の前にある顔と合致させるのが難しい。
「あの……何度も助けて頂きありがとうございます。何年も経ってしまって今更なんですが」
頭を下げてから彼の顔を見ると、眼鏡の奥の眼が優しげに細められた。
「医者として当然ですよ」
その表情と同じくらい穏和な口調で答えた。
(こんなまともそうなのに……よくずっと天音くんと友だちやってられるな)
引っ越し祝いの準備はもう既に整っていた。
女性陣が二階の事務所にあるミニキッチンで作った軽食やそれぞれ持ち寄った差し入れが、ローテーブルにところ狭し並べられている。
人数も多いが差し入れも多く、飲み物もジュースからアルコールまで何種類も用意されていた。
それぞれに飲み物が行き渡ると、何故か天音が乾杯の音頭を取った。
「ふたりが末永く幸せであることを祈って」
「かんぱーい」
一斉に声があがる。
(おいおいっ。末永く幸せって。天音くん……それ、かなりオープンすぎるよ)
しかし誰ひとりとして気にしている者はいないようだった。
(オレたちって、ひょっとして、恵まれてるのか)
なんとなく温かな気持ちになっているところで、
「この先もあの時の約束守ってね。ハ・ル・く・ん?」
肝の冷える一言を天音が言う。オレの横に座っている遙人の顔を見ると、めちゃめちゃ緊張していて心なしか蒼ざめている。
三年半程前、天音が遙人に言った言葉。
『詩雨くん捨てたら許さない』
その時味わった恐怖がどうやら甦ったらしい。
「やっぱりあのパーティーの時に、詩雨を貴方に任せてよかったわ。あれからだんだん良い方向に向かったもの」
更に朱音が追い討ちをかける。彼女も遙人に圧をかけていた。
二年間の引き籠り後に出席したパーティーでオレは倒れ、朱音はたまたま居合わせた遙人に自宅まで送るように命じた。
「あの時、いったい何があったのかしら」
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