2 / 44
第2話
なんだ。これは」
寮は荒れていた筈だ。あの日から。あの日から。何度過去を振り返っても戻ることはない。全てが完璧に綺麗になっていた。ぐちゃぐちゃの服もゴミも全部。
「おかえりなさいませ。わたしは」
「余計なことをするんじゃねぇ」
「わたしは頼まれたことを遂行しただけですが」
「頼んでねぇ。誰だ。てめぇは」
「わたしは真白薫です」
「マシロカオル。全部が名前か」
「いいえ。名前は薫です。マシロは働いていた職場の店長の苗字でして、髪色とかぶるから面白いななんて言われました。何処が面白いのかは謎ですけど、わたしも質問があります。頭から生えてる獣耳は本物のですか?」
「はっ。何を言ってるんだ。獣人に耳と尻尾が生えてるのは当たり前だろ。嘘はついてないみたいだな」
彼はわたしが嘘をついてはいない。確信しているようだった。疑うのが普通のはずなのに。
「疑わないのですか?」
「目が。泳いでねぇからな」
「なるほど。しかし、お互い落ち着いて座って話しましょうか。一時休戦しましょう。紅茶を淹れますので、右手の部屋で待っていてください」
獣人の男。わたしも昔。ファンタジー小説や架空の生き物が好きだった。母に全てを捨てられて、自室に閉じ込められたこともあった。今は懐かしいとしか思えなくなるぐらいにはなったけど。彼はどうしてあんなに怯えているのだろう。変わるのを恐れて人を遠ざけているみたいな。気のせいでしょうか。わたしには関係ありません。
薫は関係ないと言いながら、気持ちが落ち着くミントティーを淹れた。万が一に備えて、荷物と食料、調味料を一式持って彼のいる部屋に向かった。
ともだちにシェアしよう!