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第2話

なんだ。これは」  寮は荒れていた筈だ。あの日から。あの日から。何度過去を振り返っても戻ることはない。全てが完璧に綺麗になっていた。ぐちゃぐちゃの服もゴミも全部。 「おかえりなさいませ。わたしは」 「余計なことをするんじゃねぇ」 「わたしは頼まれたことを遂行しただけですが」 「頼んでねぇ。誰だ。てめぇは」 「わたしは真白薫です」 「マシロカオル。全部が名前か」 「いいえ。名前は薫です。マシロは働いていた職場の店長の苗字でして、髪色とかぶるから面白いななんて言われました。何処が面白いのかは謎ですけど、わたしも質問があります。頭から生えてる獣耳は本物のですか?」 「はっ。何を言ってるんだ。獣人に耳と尻尾が生えてるのは当たり前だろ。嘘はついてないみたいだな」  彼はわたしが嘘をついてはいない。確信しているようだった。疑うのが普通のはずなのに。 「疑わないのですか?」 「目が。泳いでねぇからな」 「なるほど。しかし、お互い落ち着いて座って話しましょうか。一時休戦しましょう。紅茶を淹れますので、右手の部屋で待っていてください」  獣人の男。わたしも昔。ファンタジー小説や架空の生き物が好きだった。母に全てを捨てられて、自室に閉じ込められたこともあった。今は懐かしいとしか思えなくなるぐらいにはなったけど。彼はどうしてあんなに怯えているのだろう。変わるのを恐れて人を遠ざけているみたいな。気のせいでしょうか。わたしには関係ありません。  薫は関係ないと言いながら、気持ちが落ち着くミントティーを淹れた。万が一に備えて、荷物と食料、調味料を一式持って彼のいる部屋に向かった。

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