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第6話

「店主。新しく雇った料理人か。怖い顔してるな。無表情で。笑顔の練習させたらどうだ」 「はは。そっそうだな」  雇った。馬鹿言うな。戸籍もない表情は常に変わらない鉄仮面。あんな不気味な奴を誰が……誰が……。なんだこの匂い。 「旨そうな匂いがするじゃねぇか」  客に言われ、店主の腹もぐぅーと鳴った。奥の台所から男が出てきた。手にはお盆。お盆の上にはパンとさっきと匂いの違う見た目は同じのスープ。 「お待たせ致しました」 「おう。あんちゃん。  ほんとに美味いんだろうな」  男は何も言わずに、食べれろというように、どうぞという仕草をした。客がスプーンを持ち一口口に運び、無言で2口、3口と口に運んでいく。 「パンにつける遠いしかと。店主もどうぞ」  いつの間によそっていたのか、スープを差し出され、店主も1口食べた。 「美味いな。ただ辛いだけじゃない。中に入った食材の旨みが引き立って、パンにつけて食べたくなる味だ」 「あら、あたしにもそれくれないかしら」  桜色の長い髪。団長と同じ耳の形。おねぇな喋り方。まさか彼が。 「副団長さん」 「あら。団長の知り合いかしら。いいわ。  店主。お金はオレが払うからさっさと戸籍の手続きしてちょうだい。あなたはオレと話しましょうか。時間あるわよね」 「はい。問題ありません」 「そこの席。借りるわ」  店の1番端の席に彼と一緒に薫は座る。さっきまでの柔らかな表情は一切消え去り。暗殺者のような目付きになった。 「それで、あんたは何者。団長とどうゆう関係なのかしら」  関係。関係を問われたら、言える事は1つしかない。 「関係。わたしは言葉の順序を間違えて、放り出されてしまっただけの関係で、深い仲ではありません」  ますます意味が分からないという顔をする彼に、薫は、はしょらず全てを正直に話した。

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