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第29話
リーブは神殿の牢屋で生まれた。一緒に牢屋に入れられていた女性と母が家族だった。皆、ボクを愛情たっぷりに育ててくれた。父親は知らない。居なくても困らなかった。母と彼女達がいたから。成長するにつれて分かってきた。牢屋から出されると傷だらけで帰ってきた。頬が腫れていたり、頭から血を流していたり。全身に吹き出物が出来て血を吐いて死んだ人。牢屋から出された人は帰ってくると必ず死んだ。
牢屋を出たら最後。母の番がきた。
「おかあさん。いかないで。おねがい。
しなないで。ここからでていかないで」
「リーブ。あなたは幸せになるのよ」
母は戻って来た。魂が抜けたようだった。何を言っても反応しない。頬は腫れあがり、履いていたズボンは血だらけ。
母は母で無くなった。
怖くて怖くて、ボクは逃げ出した。お母さんとみんなを置いて。怖くて振り返れなかった。
「逃げ出した先で、団長にでっ出会った」
「ここ迷宮でしたよね」
「どっどうやって逃げたかは、よく覚えてない」
「そうですか」
「ボクは逃げてばかりで、あの時から何も変わってない。きっとみんなが恨んでる」
「恨んでる恨んでない。聞いてないのだから、分かりません。すみません。先に謝ります。わたしは欠陥人間なので、同情が出来ません。過酷な話を聞いても他人事にしか思えません。普通の人ならきっと、涙ぐらいは流すのでしょう。わたしは他人に干渉しません。してもメリットになりませんから。わたしがここまでするのは珍しい事なので、今から見ることは忘れてください。
わたしはこの力が大嫌いで軽蔑したいものなので」
リーブの前でカオルが大きく息を吸い込んだ。歌を歌いはじめた。それはリーブも聞いたことがない。祈りの歌に感じた。
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