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第30話
薫は必死に歌った。協力すぎる力には代償がある。力を使うたびに体にかなりの痛みが発生する。具合が悪い時は尚更痛みが激しい。思い出したくない記憶も蘇る。
母と父が決別した日の記憶が蘇ってきた。母は興信所にありったけのお金を注ぎ込み調査した報告書と写真を父に突きつけた。
「これ。嘘よね。嘘だと言って。子ども目的じゃないわよね。愛してるって言ってよ」
「ごめん。ごめんなさい。わたしは誰も愛せない」
残酷な言葉を母に突きつけて、父は母の前から姿を消し、わたしの地獄のような日々が始まった。母が壊れたという点が同じだったリーブに同情して、らしくない事をしてしまった。薫は幸せが分からない。だから、痛みの中で薄っすら見えるリーブと母親、彼女達の姿が羨ましかった。確かにそこには名前をつけるなら幸せしかない光景があった。
きちんとお別れが出来ましたか。中途半端な形で終わらせてしまったらすみません。わたしの体力がもう限界です。もう少し。あと少し。こんなにわたしは頑張っているのか、本当に馬鹿みたいです。
普段なら限界を迎えるまで力を使わない。どんな状態になるのか。自覚しているから。口の中が血の味で満たされ、堪えきれず薫は吐血した。目の前が真っ暗になった。気絶して倒れる直前に思い浮かんだのは、雪の中わたしを見つけ申し訳ない表情を浮かべるジキルの顔と、風呂場でわたしの傷だらけの体を見て悲痛な表情を見せたジェリーの顔だった。
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