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第38話
「コンニチハ」
挨拶をされて薫は固まる。怖さなんて久しく忘れていた。体が震えるのは具合が悪いからなのか、どちらか分からない。ここから出たい。それだけしか考えられなかった。頭が痛い。混乱して何も考えられない。挨拶を返す気力すらなかった。挨拶をした一団のリーダーなのか挨拶をした灰色の髪をした年若い彼が近付いて来た。
「こわがる。こわがらないで」
泣きそうな顔をしている彼に、なんて言葉をかけたら良いのか分からない。
「たのみ。あるよ」
情けない。頷くことしか出来ないなんて。わたしは1人で生きて来た。生きなければならなかった。生きるために働いた。ただ生きるだけ。目標も大切な人も、友達も作らないように。わたしの事なんて誰も知らない世界に来て、弱くなってしまった。
「弱い自分は自分ではない」
「ちがう。よわいじぶん。みとめ。つよくなる。
ワタシ。きずけなかった。ぜんぶ。たいせつ」
幽霊に慰められるなんて。だけど、お世辞や同情ではなくて、本心で言われているのは分かる。認めたくなかった。弱さは弱点。認めるなんて出来ない。
「わたしには分かりません。頼みはなんですか?」
ようやくまともな会話になる言葉が薫の口から出た。
「ほね。みんなの。まいそうして。はな。おんねん。ぜんぶ。もっていく」
埋葬。それぐらいなら薫にも出来そうだから、引き受けても良い。彼ら、彼女らはどうして急に出てきたのだろうか。
「どうして、急に出て来たのですか?」
薫の質問に数分口を閉ざしたが、彼は自分の過去を合わせて話し出した。
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